IROHA 保存版ガイド・お金と制度
がんになったら最初に確認したい
「お金の制度7選」徹底解説【保存版】
がんと診断されると、治療のことと同じくらい「お金は大丈夫だろうか」という不安が押し寄せてきます。治療費だけでなく、仕事を休んだときの収入、退職、長引いたときの生活、介護。日本には、こうした場面を支える公的な制度がいくつもあります。ただ、制度ごとに対象になる人や条件、窓口がまったく違うため、知らないまま使いそびれてしまうことも少なくありません。この記事では、がんになったら最初に確認したい7つの制度を、対象・金額の計算例・手続き・落とし穴まで、どこよりも詳しく、ていねいに解説します。
- 7つの制度はすべての人が全部使えるわけではない。加入している保険、働き方、年齢、体の状態で使える制度が変わる
- 制度には「医療費が下がる」「現金が受け取れる」「税金が減る」「サービスが受けられる」「お金を借りる」と性質の違いがある
- 確認の順番は支出を抑える → 収入を守る → 退職を急がない → 長期に備える → 年末に税金を精算
- 高額療養費は2026年8月に改正され、新たに「年間上限」ができた。古い記事の金額に注意
- 迷ったら一人で抱え込まず、病院のがん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーに相談を
7つの制度の全体像
まずは7つの制度を一覧で見てみましょう。「お金の性質」に注目すると、それぞれの役割が分かりやすくなります。
| 制度 | 主な役割 | お金の性質 | 最初に確認する条件 | 確認するタイミング |
|---|---|---|---|---|
| ① 高額療養費 | 保険診療の自己負担を抑える | 医療費の軽減 | 加入している公的医療保険・所得区分 | 最優先(治療前から) |
| ② 傷病手当金 | 働けない期間の収入を補う | 現金の給付 | 会社員などの健康保険に加入・働けない状態 | 会社員などは最優先 |
| ③ 医療費控除 | 1年間の医療費に応じて税金を下げる | 税金の控除 | 実際に支払った年間の医療費 | 年末〜確定申告 |
| ④ 障害年金 | 長期・重度の生活や仕事の制限を支える | 年金 | 初診日・保険料の納付・障害の状態 | 療養が長引いたとき |
| ⑤ 雇用保険 | 退職後、再就職までの生活を支える | 現金の給付 | 雇用保険の加入期間・すぐ働ける状態か | 退職する前 |
| ⑥ 介護保険 | 訪問介護や福祉用具などを使えるようにする | サービスの給付 | 年齢・要介護の状態・特定疾病 | 日常生活に介助が必要になったとき |
| ⑦ 生活福祉資金 | 一時的な資金不足をつなぐ | 貸付(返済が必要) | 低所得など・返済の見込み | お金が足りなくなったとき |
| ⑦ 生活保護 | 最低限の生活と医療を保障する | 扶助 | 世帯の最低生活費と収入・資産 | 生活が成り立たなくなったとき |
生活福祉資金は社会福祉協議会が審査して貸し付ける「借金」、生活保護は福祉事務所が最低限の生活を保障する「扶助」です。目的も、返済の有無も、窓口もまったく異なるので、この記事では分けて解説します。
確認する順番と、最初に知っておきたい注意点
診断を受けた直後は、すべての制度を一度に調べる必要はありません。次の順番で確認していくと、取りこぼしを防げます。
- 1支出を抑える:手術・入院・抗がん剤の前に、高額療養費の上限を窓口で適用できるようにする
- 2収入を守る:会社員などは、仕事を休むなら傷病手当金を確認する
- 3退職を急がない:辞める前に、傷病手当金の継続や雇用保険の手続きを確認する
- 4長期に備える:療養が長引いたら障害年金、介助が必要になったら介護保険を検討する
- 5年末に精算する:1年分の医療費を集計して、医療費控除を申告する
- 6家計が尽きる前に相談する:社会福祉協議会や福祉事務所につなぐ
そして、よくある誤解を正しく言い換えておきましょう。
| 制度 | よくある誤解 | 正しくは |
|---|---|---|
| 高額療養費 | 「医療費には上限がある」 | 保険診療の自己負担に、所得などに応じた上限がある。差額ベッド代、入院中の食費、先進医療などは別扱い |
| 傷病手当金 | 「働けないと給料の3分の2がもらえる」 | 会社員などの健康保険加入者が働けないとき、標準報酬を基準におおむね3分の2相当が支給される。国民健康保険の加入者は原則対象外 |
| 医療費控除 | 「医療費が10万円を超えたら返ってくる」 | 超えた分を所得から差し引き、税金が軽くなる制度。超えた分がそのまま返金されるわけではない |
| 障害年金 | 「がんなら障害年金がもらえる」 | がんや治療の影響で一定以上の障害の状態になり、初診日や保険料の要件を満たした場合に対象 |
| 雇用保険 | 「退職したら失業手当がもらえる」 | 原則としてすぐ働ける状態で仕事を探していることが条件。療養中は「受給期間延長」を検討 |
| 介護保険 | 「40歳以上なら、がんで介護保険が使える」 | 40〜64歳は、がんが特定疾病の要件に当たる場合に対象 |
| 生活福祉資金・生活保護 | 「生活が苦しくなったら公的なお金がもらえる」 | 生活福祉資金は貸付、生活保護は扶助。家計の状況で使い分ける |
① 高額療養費制度
対象:公的医療保険の加入者窓口:加入している保険者
1か月の保険診療の自己負担が高額になったとき、所得や年齢に応じた自己負担限度額を超えた分を、公的医療保険が負担してくれる制度です。がんの治療費の負担を抑える、最も基本の制度です。
2026年8月から何が変わった?
2026年8月に制度が改正され、月ごとの上限額が見直されるとともに、新たに「年間上限」が設けられました。月の上限に届かない月が続く長期療養の方でも、1年間の負担が年間上限を超えた分は払い戻されます。さらに2027年8月には、所得区分を細かくする改正が予定されています。そのため、「80,100円+1%」など2026年7月以前の金額で書かれた情報は、いまの制度と合わないことに注意してください。
70歳未満の自己負担限度額(2026年8月〜2027年7月)
| 年収の目安 | 月の上限額 | 多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 約770万〜約1,160万円 | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 約370万〜約770万円 | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 〜約370万円 | 61,500円 | 44,400円 | 53万円※ |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
※年収約200万円以下の区分に当たることが確認できた方は、年間上限41万円(2027年8月以降に払い戻し)。所得区分は、健康保険では「標準報酬月額」、国民健康保険では「旧ただし書き所得」で決まります。年収は目安です。70歳以上の方は、外来の上限などが別に定められています。
85,800円+(1,000,000円-286,000円)×1%=92,940円3割負担なら窓口では30万円ですが、自己負担の上限は92,940円。差額の約20万7千円が高額療養費として支給されます(厚生労働省も同じ例で「約9.3万円」と案内しています)。知っておきたい仕組み
- 多数回該当:過去12か月以内に3回以上上限に達すると、4回目からは上限がさらに下がります。抗がん剤や分子標的薬、免疫療法など、高額な月が続く方には特に重要です。
- 年間上限:月の上限に届かない月が多くても、1年間(8月〜翌年7月)の合計が年間上限を超えれば、超えた分が払い戻されます。
- 世帯合算:同じ医療保険に加入する家族の自己負担を合算できる場合があります(70歳未満は1件21,000円以上のものが対象)。
手続きの方法
- マイナ保険証を使う:医療機関でマイナ保険証を使い、限度額情報の提供に同意すれば、窓口での支払いが最初から上限額までになります。
- 限度額適用認定証:マイナ保険証を使えない場合は、加入している保険者に「限度額適用認定証」を申請し、医療機関に提示します。
- あとから申請:いったん支払った後でも、保険者に申請すれば払い戻しを受けられます。
窓口は、協会けんぽなら各都道府県支部、健康保険組合なら加入している組合、国民健康保険なら市区町村、後期高齢者医療制度なら後期高齢者医療広域連合などです。
落とし穴
- 月またぎ:原則として月ごと(1日〜末日)に計算します。1月末に手術して2月に退院すると、1月と2月は別々に計算され、どちらも上限に届かないことがあります。入院の時期を相談できる場合は、医療機関に聞いてみましょう。
- 対象外の費用:差額ベッド代、入院中の食費の自己負担、先進医療の技術料、自由診療などは対象外です。
- 病院ごとの支払い=最終的な負担ではない:複数の医療機関の分を合算できる場合があります。
② 傷病手当金
対象:会社員・公務員などの健康保険の被保険者窓口:加入している健康保険
仕事以外の病気やけがで働けず、十分な給与を受け取れないときに、収入を補ってくれる制度です。がんの治療で休職する会社員などにとって、とても大きな支えになります。国民健康保険の加入者(自営業の方など)は、原則として対象外です。
受け取れる条件
- 仕事以外の病気・けがの療養中である
- 仕事に就くことができない(医師などが証明)
- 連続する3日間(待期期間)休んだあと、4日目以降の休み(待期には土日や有給休暇も含められます)
- 給与が支払われていない、または傷病手当金より少ない(少ない場合は差額を支給)
支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3例:平均30万円の場合 300,000÷30×2/3≒6,667円/日 → 30日分で約20万円「手取り給与の3分の2」でも「直前の給与総額の3分の2」でもありません。加入期間が12か月未満の場合は、別の計算方法があります。いつまで受け取れる?
支給を始めた日から通算して1年6か月です。2022年1月からは、途中で出勤して支給されなかった期間があれば、その分を延ばせる「通算」の仕組みになりました。治療と仕事を行ったり来たりするがんの治療には、うれしい改正です。
手続きの方法
申請書は、本人が書く欄、会社(事業主)が証明する欄、医師が「働けない」ことを証明する欄で構成されています。1か月ごとなど、期間を区切って申請するのが一般的です。協会けんぽでは電子申請もできます。
落とし穴
- 退職前の確認が最重要:退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職時に傷病手当金を受けているか受けられる状態であれば、退職後も続けて受け取れる場合があります(継続給付)。ただし退職日に出勤すると継続給付を受けられなくなるなど、退職日の過ごし方が影響します。「辞めてから申請すればよい」と考えず、退職前に保険者へ確認しましょう。
- ほかの給付との調整:給与、同じ病気での障害厚生年金、出産手当金などとは調整があり、両方を満額受け取れるとは限りません。
③ 医療費控除
対象:所得税を納めている人(家族の医療費も可)窓口:税務署(確定申告)
1年間(1月〜12月)に支払った医療費が一定額を超えたとき、超えた分を所得から差し引いて、所得税と住民税を軽くする制度です。現金が給付される制度ではありません。本人だけでなく、生計を一にする配偶者や家族のために支払った医療費も合算できます。
実際に支払った医療費-保険金などで補てんされた金額-10万円総所得金額等が200万円未満の方は、「10万円」の代わりに「総所得金額等×5%」を差し引きます。| 計算例 | 金額 |
|---|---|
| 1年間に支払った医療費 | 400,000円 |
| 高額療養費で払い戻された金額 | -150,000円 |
| 民間の医療保険の入院給付金など | -50,000円 |
| 差し引き後の医療費 | 200,000円 |
| 所得200万円以上の方の基準額 | -100,000円 |
| 医療費控除の額 | 100,000円 |
この場合、10万円が返ってくるのではなく、所得が10万円少なかったものとして税金が計算されます。たとえば所得税率10%の方なら、所得税が約1万円、住民税(10%)が約1万円軽くなるイメージです。もともと税金をほとんど納めていない方は、医療費が多くても還付が少ない、またはないこともあります。
対象になるもの・ならないもの
| 対象になりうるもの | 原則対象にならないもの |
|---|---|
| 診察・治療費、入院費、治療のための医薬品、通院の電車・バス代など | 健康増進のためのサプリメント、自家用車のガソリン代・駐車料金、本人の希望による差額ベッド代 |
タクシー代は、症状などで電車やバスを使えない場合に限って対象になります。自由診療の費用は、治療のためのものであれば対象になりうるので、領収書を保管しておきましょう。
手続きの方法
確定申告で「医療費控除の明細書」を提出します。健康保険の「医療費通知」を使える場合もあります。会社員など確定申告が不要な方でも、還付申告ができます。領収書は5年間保管しましょう。
④ 障害年金
対象:病気やけがで生活・仕事に一定以上の制限がある人窓口:年金事務所・街角の年金相談センター
障害年金は、病気やけがで生活や仕事に支障が出たときに受け取れる年金です。がんも対象になります。がんそのものや転移、臓器の障害、強いだるさ、治療後の機能障害などで、日常生活や仕事が一定以上制限されていれば、対象となる可能性があります。身体障害者手帳とは別の制度です。「ステージ4なら自動的にもらえる」「働いていたら絶対にもらえない」は、どちらも誤解です。
どの年金が対象?
- 障害基礎年金(1級・2級):初診日に国民年金に加入していた方など
- 障害厚生年金(1級〜3級):初診日に厚生年金に加入していた方。1級・2級では障害基礎年金もあわせて受け取れます
受け取るための3つの要件
- 初診日:がんの症状で初めて医師の診察を受けた日に、年金制度に加入していたこと
- 保険料の納付:初診日の前々月までの加入期間の3分の2以上で保険料を納付または免除されていること。または、初診日に65歳未満で、前々月までの1年間に未納がないこと(特例)
- 障害の状態:障害認定日(原則として初診日から1年6か月後)などに、障害等級に当たる状態であること
2026年度の年金額
| 種類・等級 | 年額(昭和31年4月2日以後生まれの方) | 月額の目安 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 1級 | 1,059,125円+子の加算 | 約88,260円 |
| 障害基礎年金 2級 | 847,300円+子の加算 | 約70,608円 |
| 障害厚生年金 1級 | 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(243,800円) | 加入期間・給与で異なる |
| 障害厚生年金 2級 | 報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(243,800円) | 加入期間・給与で異なる |
| 障害厚生年金 3級 | 報酬比例の年金額(最低保障額 635,500円) | 加入期間・給与で異なる |
子の加算は、2人目まで1人につき243,800円、3人目以降は1人につき81,300円。配偶者の加給年金額は、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合。障害厚生年金は、厚生年金の加入期間が300か月未満でも300か月とみなして計算します。
請求に必要な主な書類
年金請求書、所定の様式の診断書、初めて受診した医療機関と今の医療機関が違う場合の「受診状況等証明書」、「病歴・就労状況等申立書」、本人名義の口座の情報などです。請求の前に、年金事務所で初診日や納付状況を確認しておくとスムーズです。
落とし穴:「がん治療中」だけでは伝わらない
障害年金は、診断名ではなく生活や仕事にどれだけ支障があるかで審査されます。「がんの治療中です」だけでは、その程度が伝わりません。食事・入浴・外出・家事がどこまでできるか、横になっている時間、通院の頻度、副作用の症状、勤務時間の短縮や欠勤などを、日頃からメモに残しておきましょう。診断書と申立書の内容が食い違わないよう、主治医とも共有しておくことが大切です。
- 障害認定日に要件を満たしていれば、さかのぼって請求できます(さかのぼれるのは最大5年分)。
- 認定日には軽かったが後で悪化した場合は「事後重症請求」ができます。原則として65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。
⑤ 雇用保険(基本手当・受給期間延長)
対象:雇用保険に加入して退職した人窓口:ハローワーク
いわゆる「失業手当」(基本手当)は、病気で働けない期間を補う制度ではなく、退職した人が、生活を安定させながら仕事を探すための制度です。原則として、退職前2年間に雇用保険の被保険者期間が12か月以上必要です(倒産・解雇や、病気などやむを得ない理由による退職の場合は、退職前1年間に6か月以上でも可)。
療養中なら「受給期間延長」を
基本手当を受け取れる期間(受給期間)は、原則として退職の翌日から1年間です。抗がん剤治療や手術後などで引き続き30日以上働けないときは、働けない日数分だけ受給期間を延ばすことができます(最長3年、通常の1年と合わせて最長4年)。申請が遅れると、所定の日数を受け取りきれなくなることがあるため、早めにハローワークで手続きしましょう。
受け取れる金額(2026年8月1日現在)
賃金日額(退職前6か月の賃金合計÷180)×約50〜80%賃金が低い方ほど高い率になります(60〜64歳は45〜80%)。| 退職時の年齢 | 基本手当日額の上限 |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,450円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,270円 |
| 45歳以上60歳未満 | 9,110円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,830円 |
知っておきたいポイント
- 離職理由:療養のための退職は、事情によって「特定理由離職者」に当たる場合があり、給付日数や給付制限に影響します。会社の書類だけで決まるわけではなく、ハローワークが判断します。診断書などを残しておきましょう。
- 給付制限:2025年4月から、通常の自己都合退職の給付制限は原則1か月に短縮されました。
- 名前が似た制度に注意:雇用保険にも「傷病手当」という制度があります。基本手当の手続き後に15日以上働けなくなった場合などのもので、健康保険の「傷病手当金」とは別の制度です。
⑥ 介護保険
対象:65歳以上、または40〜64歳で特定疾病に当たる人窓口:市区町村の介護保険担当
介護保険は、訪問介護、訪問看護、デイサービス、福祉用具のレンタル、住宅改修などのサービスを、1〜3割の負担で利用できる制度です。原則として現金が振り込まれる制度ではありません。
| 年齢 | 利用できる条件 |
|---|---|
| 65歳以上 | 原因の病気を問わず、要支援・要介護の状態であれば認定を受けられる |
| 40〜64歳 | 医療保険に加入していて、要介護状態の原因が16の「特定疾病」であること。がんは「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの」が対象 |
| 40歳未満 | がんを理由に介護保険は原則使えない。障害福祉サービスや自治体の独自サービス、医療保険の訪問看護などを検討 |
申請書に必ず「末期がん」と書かなければいけないわけではありません。厚生労働省は、主治医意見書に「がん」とだけ書かれていても申請を受け付け、特定疾病に当たるかは介護認定審査会で判断すること、申請する方の気持ちに配慮することを自治体に通知しています。
申請から利用まで
市区町村の窓口に申請 → 認定調査と主治医意見書 → 介護認定審査会 → 要支援1・2、要介護1〜5などの認定、という流れです。がんは状態が早く変わることがあるため、退院前から病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センター、ケアマネジャーと相談しておくと安心です。
利用限度額内 167,650円×10%=16,765円限度額を超えた分 200,000円-167,650円=32,350円(全額自己負担)合計の自己負担は約49,115円。要介護1の在宅サービスの利用限度額は月16,765単位です。実際は地域やサービスによる単価、加算、食費などで変わります。施設を利用するときの食費や居住費には、所得や預貯金の状況に応じた「負担限度額認定」などの軽減制度もあります。申請した月からの適用になる自治体が多いので、早めに確認しましょう。
⑦ 生活福祉資金と生活保護
生活福祉資金貸付制度(貸付)
対象:低所得世帯・障害者世帯・高齢者世帯など窓口:市区町村の社会福祉協議会
都道府県の社会福祉協議会が行う、返済が必要な貸付です。ほかから借りることが難しい低所得の世帯などが対象で、貸し付けるかどうかは条件だけでなく返済できる見込みも考慮されます。そのため、収入が完全に途絶えて返済の見込みがない場合は、生活保護など別の制度を検討したほうがよいこともあります。
| 資金 | 主な用途 | 貸付の上限など |
|---|---|---|
| 総合支援資金(生活支援費) | 生活を立て直すまでの生活費 | 単身 月15万円以内、2人以上 月20万円以内。原則3か月(最長12か月) |
| 総合支援資金(住宅入居費) | 敷金・礼金など | 40万円以内 |
| 総合支援資金(一時生活再建費) | 公共料金の滞納の立て替えなど | 60万円以内 |
| 福祉資金(福祉費) | 療養、介護、福祉用具、住宅改修など | 580万円以内(用途ごとに上限あり) |
| 緊急小口資金 | 一時的・緊急の生活費 | 10万円以内(無利子) |
利子は、連帯保証人を立てる場合は無利子、立てない場合は年1.5%(緊急小口資金は無利子)。新型コロナの「特例貸付」は2022年9月末で受付が終了しており、現在は通常の制度です。
生活保護(扶助)
対象:最低生活費を収入が下回る世帯窓口:住んでいる地域の福祉事務所
資産や働く力、ほかの制度などを活用してもなお、世帯の収入が国の定める最低生活費に届かない場合に、足りない分を保障する制度です。がんの方専用の制度でも、高齢者専用の制度でもありません。
保護費=世帯の最低生活費-認定される収入例:最低生活費が月13万円、収入が月5万円の場合 130,000円-50,000円=80,000円最低生活費は、住んでいる地域、年齢、世帯の人数、家賃などで変わります。13万円は説明のための例です。生活保護には、生活費の「生活扶助」、家賃の「住宅扶助」のほか、医療費の「医療扶助」、介護の「介護扶助」などがあります。医療扶助では、必要な医療の費用が原則として医療機関に直接支払われ、本人の負担はありません。治療を続けるために生活保護を相談することは、制度上の正当な選択肢です。
- 書類がそろっていなくても申請できます。厚生労働省も、必要な書類がそろっていなくても申請できることを案内しています。
- 親族に頼れないことは、申請を断る理由にはなりません。実際に受けられる援助は考慮されますが、扶養義務者がいることだけで一律に申請できないわけではありません。
- 申請後は、家庭訪問などによる生活状況、預貯金・保険・不動産などの資産、年金や給与などの収入の調査が行われます。福祉事務所がない町村では、町村役場でも申請できます。
ケース別:こんなときはどうする?
| ケース | 考え方 |
|---|---|
| 手術を控えた会社員 | まず高額療養費の上限を窓口で適用できるようにする。休みが長くなりそうなら傷病手当金を申請。年末に医療費控除を検討 |
| 抗がん剤の副作用で仕事を続けられず、退職を考えている | すぐに辞める前に、傷病手当金の継続給付の条件、休職制度、両立支援を確認。退職後も働けなければ雇用保険の受給期間延長 |
| 退職後、半年療養して回復した | 働けない間は受給期間延長。回復して働けるようになったら、ハローワークで基本手当の手続き |
| 治療後も強いだるさや臓器の障害が残っている | 「がんだから」ではなく、初診日・保険料の要件と、生活や仕事の具体的な制限をもとに障害年金を検討 |
| 62歳、在宅療養で歩行や入浴に介助が必要 | 40〜64歳なので、がんが特定疾病の要件に当たるかを主治医と市区町村に確認し、要介護認定を申請 |
| 1年間の医療費が50万円だった | 50万円がそのまま控除になるわけではない。高額療養費や民間保険金を差し引き、さらに10万円などを引いた額が控除額 |
| 貯金が尽き、来月の生活費がない | 一時的で返済の見込みがあるなら社会福祉協議会の生活福祉資金。収入が最低生活費を下回り続け、返済が難しいなら、借入で先送りせず福祉事務所に生活保護を相談 |
今すぐ使えるチェックリスト
診断を受けたら、次の項目を一つずつ確認してみてください。
| ✓ | 確認すること | 主な制度 |
|---|---|---|
| □ | 加入している健康保険は、協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険のどれか | 高額療養費・傷病手当金 |
| □ | 来月までに手術・入院・高額な薬の予定があるか | 高額療養費 |
| □ | マイナ保険証で限度額情報を医療機関に提供できるか | 高額療養費 |
| □ | 会社員などで、治療のため4日以上仕事を休む見込みか | 傷病手当金 |
| □ | 退職を考えているなら、その前に傷病手当金や会社の制度を確認したか | 傷病手当金 |
| □ | 退職後、すぐに働ける体調か | 雇用保険 |
| □ | 働けない状態が30日以上続きそうか | 雇用保険(受給期間延長) |
| □ | がんで初めて受診した日と病院名を記録しているか | 障害年金 |
| □ | 生活や仕事への支障が長く続いているか | 障害年金 |
| □ | 入浴・移動・トイレ・家事などに介助が必要になったか | 介護保険 |
| □ | 医療費の領収書・医療費通知・交通費の記録・保険の給付を保管しているか | 医療費控除 |
| □ | 3〜6か月先の収入と固定費を試算したか | すべての制度 |
| □ | 借入で一時的に立て直せる状況か | 生活福祉資金 |
| □ | 借入では解決せず、最低生活費を下回っているか | 生活保護 |
相談窓口一覧
| 窓口 | 相談できること |
|---|---|
| がん相談支援センター(全国のがん診療連携拠点病院など) | お金や仕事を含む、がんに関するあらゆる相談。その病院にかかっていなくても無料で利用できる |
| 病院の医療ソーシャルワーカー | 制度の使い方、退院後の生活、介護の準備 |
| 加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村の国保) | 高額療養費、限度額適用認定証、傷病手当金 |
| 年金事務所・街角の年金相談センター | 障害年金の要件、初診日、納付状況、書類 |
| ハローワーク | 基本手当、受給期間延長、離職理由 |
| 市区町村の介護保険担当・地域包括支援センター | 要介護認定、介護サービス |
| 税務署 | 医療費控除、確定申告 |
| 市区町村の社会福祉協議会 | 生活福祉資金 |
| 福祉事務所 | 生活保護(書類がそろう前でも相談・申請できる) |
最近の制度改正と今後の予定
| 時期 | 制度 | 内容 |
|---|---|---|
| 2022年1月 | 傷病手当金 | 支給期間が「通算1年6か月」に |
| 2025年4月 | 雇用保険 | 通常の自己都合退職の給付制限を原則1か月に短縮 |
| 2026年4月 | 障害年金 | 2026年度の年金額に改定(障害基礎年金2級 847,300円など) |
| 2026年8月 | 高額療養費 | 月の上限額を見直し、「年間上限」を新設 |
| 2026年8月 | 雇用保険 | 基本手当日額の上限などを改定 |
| 2027年8月(予定) | 高額療養費 | 所得区分をさらに細かく分ける予定。実施時は最新情報の確認を |
よくある質問
高額療養費と医療費控除は、両方使えますか?
使えます。ただし医療費控除を計算するときは、高額療養費として払い戻された金額や、民間保険の給付金などで補てんされた金額を差し引きます。同じ医療費を二重に計上することはできません。
傷病手当金と失業手当(雇用保険の基本手当)は同時にもらえますか?
前提が反対なので、同じ時期に両方を受け取るものではありません。傷病手当金は「働けない」こと、基本手当は「すぐに働ける状態で仕事を探している」ことが前提です。療養中は傷病手当金や受給期間延長、回復したら基本手当、という時間の流れで考えるのが基本です。
ステージ4なら障害年金の1級になりますか?
いいえ。ステージだけで等級は決まりません。がんやその治療によって、日常生活や仕事にどの程度の制限があるかを、障害の程度ごとに個別に判断します。
40代でがんになりました。介護保険は使えますか?
年齢だけでは使えません。40〜64歳の方は、医療保険に加入していて、がんが介護保険の「特定疾病」の要件(医師が回復の見込みがない状態と判断したもの)に当たり、要支援・要介護の認定を受ける必要があります。
生活福祉資金は、がん患者なら借りられますか?
がんという診断だけでは決まりません。世帯の収入、お金の使い道、ほかから借りられるかどうか、返済できる見込みなどを審査します。あくまで「貸付」なので、原則として返済が必要です。
生活保護を受けたら、がんの治療をやめなければいけませんか?
そのようなことはありません。生活保護には「医療扶助」があり、必要な医療の費用は原則として医療機関に直接支払われ、本人の負担はありません。
書類がそろっていないと、生活保護は申請できませんか?
そんなことはありません。厚生労働省は、必要な書類がそろっていなくても申請できることを案内しています。生活が苦しいときは、まず福祉事務所に相談してください。
「年収◯◯万円」の区分は、給与の額で決まりますか?
高額療養費の所得区分は、会社員などの健康保険では「標準報酬月額」、国民健康保険では「旧ただし書き所得」で決まります。記事中の年収はあくまで目安です。正確な区分は加入している保険者に確認しましょう。
まとめ
がんになったときのお金の制度は、医療費を抑える → 休業中の収入を守る → 退職を急がない → 長期の障害や介護に備える → 年末に税金を精算する → 家計が尽きる前に相談する、という時間の流れで考えると、取りこぼしを防げます。高額療養費と傷病手当金だけでなく、退職後の受給期間延長、長引いたときの障害年金、40〜64歳でも使える場合がある介護保険、そして最後のセーフティネットまで、知っておくことで選べる道が広がります。
制度の条件や金額は、加入している保険や世帯の状況によって一人ひとり異なり、審査もあります。分からないことがあれば、一人で抱え込まず、がん相談支援センターや各窓口に相談してください。お金の心配が少しでも軽くなれば、治療や生活に向き合う力にもつながります。