乳がん・術前薬物療法
手術前に薬物療法を行うのはなぜ?
乳がんの術前治療の目的
乳がんと診断され、手術より先に薬の治療を提案されると、「早くがんを取り除かなくて大丈夫?」「手術ができないほど進んでいるの?」と不安になるかもしれません。
手術前に行う薬物療法を「術前薬物療法」といいます。がんを小さくするだけでなく、全身に働きかけたり、薬の効果をその後の治療に生かしたりする目的があります。治療の順番は、がんの状態や性質に合わせて決められます。
本記事は、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」を出典として、乳がんの術前薬物療法の目的と、治療を受ける前に確認したいことを紹介します。
目的① がんを小さくして、手術の可能性を広げる
術前薬物療法の主な目的の一つは、手術前にがんを小さくすることです。そのままでは切除が難しい場合に、薬の効果によって手術が可能になることがあります。
また、がんが大きく、乳房の一部を切除する「乳房部分切除術」が難しい場合でも、小さくなることで、この手術を選べる可能性があります。
国立がん研究センターでは、乳がんの治療に関する情報として、術前薬物療法によって乳房部分切除術が可能になる場合があることが説明されています。ただし、薬が効けば必ず乳房を温存できるわけではありません。手術方法は、がんの広がりや位置、乳房の大きさ、本人の希望などを踏まえて判断されます。
治療を始める前に、「自分の場合、がんを小さくすることで、どのような手術を目指すのか」を聞いておくと、治療の見通しを理解しやすくなります。
目的② 全身に働きかけ、転移・再発のリスクを下げる
手術は主に、乳房などの限られた範囲にあるがんを取り除く治療です。一方、薬物療法は、多くの場合、薬が血液の流れに乗って全身に働きかける治療です。
がんの治療では、画像や肉眼では確認できない小さながん細胞も考慮する必要があります。そのため、手術で見えるがんを取り除くことに加えて、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。
国立がん研究センターでは、術前薬物療法の目的として、転移や再発のリスクを下げることも紹介されています。乳房のしこりの大きさだけで、薬が必要かどうかが決まるわけではありません。
ただし、薬物療法を行えば、再発を完全に防げるという意味ではありません。期待できる効果と副作用を考え、その人の病状に合った治療を選びます。
目的③ 薬の効き方を、手術後の治療に生かす
手術前は、体の中にがんがある状態で薬を使うため、病変の変化を調べることで、治療への反応を確認できます。
術前薬物療法でどの程度効果が得られたかは、手術後に使う薬を考える手掛かりになります。国立がん研究センターでは、術前治療の効果に応じて、手術後も同じ薬を使ったり、薬の種類を変更したりする場合があると説明されています。
薬物療法は、単に「手術まで続ける治療」ではありません。術前の治療、手術、術後の治療を一連の計画として考え、それぞれの段階で得られた情報を次の治療に生かします。
「小さくなったか」だけに注目するのではなく、「この結果を踏まえて、その後の治療をどう考えるのか」も確認するとよいでしょう。
誰に、どのような薬を使うの?
術前薬物療法は、乳がんの人全員に必要な治療ではありません。がんの進行の程度や性質、全身の状態、本人の希望などを踏まえて、手術を先に行うか、薬の治療を先に行うかを検討します。
治療前には、針で採取した組織などを調べる病理検査を行い、がんの性質を確認します。薬を選ぶ上では、ホルモン受容体やHER2などの情報が重要になります。
乳がんの薬物療法には、細胞障害性抗がん薬、ホルモン療法薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などがあります。全てを一律に使うのではなく、がんの性質や治療の条件に合わせて選択・併用します。
「薬物療法=同じ抗がん剤を全員に使う」と捉えず、処方される薬の名前と、それぞれの役割を医師や薬剤師に確認しましょう。
治療中は、効果と副作用を確認する
薬物療法は、薬の種類や量、投与する間隔などを定めた治療計画に沿って行います。その間も、必要な診察や検査を受け、治療の効果と体の状態を確認します。効果や副作用によって、治療内容や予定が調整される場合もあります。
しこりの触り心地だけで、薬が効いているかどうかを自己判断することはできません。超音波検査やMRIなど、病状に応じた検査について説明を受けましょう。変化が気になるときは、次の受診まで抱え込まず、医療者に伝えてください。
副作用は使用する薬によって異なります。治療前とは明らかに違う症状があれば、医師・薬剤師・看護師に連絡しましょう。通院で治療を受ける場合は、休日や夜間の連絡先も確認しておくと安心です。
がんが小さくなったら、手術は不要になる?
術前薬物療法は、基本的に手術などと組み合わせて行う治療です。しこりが触れなくなったり、画像で目立たなくなったりしても、それだけで手術が不要になったとは判断できません。
手術後には、切除した組織を調べる病理検査の結果などを踏まえて、その後の治療計画を検討します。乳房や周囲のがんに対する治療と、全身に対する薬物療法は、それぞれの役割を持っています。
手術後に薬や放射線治療が提案された場合も、「術前治療が失敗した」と決めつけず、追加する治療の目的を聞いてみましょう。
治療を始める前に、確認したいこと
術前薬物療法を提案されたら、まず次のことを確認しましょう。副作用への対応や、仕事・家事との両立についても相談できます。
- 自分の場合の主な目的
- 使う薬と治療期間
- 効果を確認する時期
- 手術方法を決めるタイミング
必要に応じて、妊娠するための力を保つ「妊孕性温存」について相談します。
手術を待つ間の不安も、治療上の大切な相談内容です。がん相談支援センターも利用しながら、自分の治療の目的と見通しを確認していきましょう。
出典:国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」(乳がん 治療、乳がん 検査、薬物療法、薬物療法 もっと詳しく、乳がん 療養)(情報確認日:2026年10月28日)