神戸に暮らす太田 真美さん(53歳)。2025年10月、左の乳がんの手術を受けました。今は飲み薬による治療を続けながら、ランウェイ「SPOTLIGHT」に向けて準備を進めています。
「病気になったけど、これはこれで、自分のことをもっと大事にしなさい、労りなさいって教えてくれた病気だと思います」
出場者の多くが診断から5年、10年とたつなかで、太田さんは「私はまだ1年生なりたて」と笑います。家族のことに追われ、自分を後回しにしてきた日々。ゆっくり進むタイプのがんとわかってからの治療。そして、Instagramで見かけた広告から、自分でランウェイへの出場を申し込むまで。CHALLENGER #5として出場する太田さんに伺いました。
- 太田 真美さん/53歳。神戸市在住。結婚前はエアロビクスなどのスポーツインストラクター。メディカルヨガ・メディカルピラティスの資格、ヨガの基礎資格(RYT200)、介護職員初任者研修の資格を持つ
- 数年前から左胸の小さなしこりに気づいていたが、受診を後回しに。2025年、乳がんと診断
- 2025年10月に乳房の部分切除術を受け、放射線治療を経て、現在はホルモン療法と飲み薬の抗がん剤による治療を続けている
- 2026年11月13日、ランウェイ「SPOTLIGHT」に出場(CHALLENGER #5)
発見——「動くしこりなら大丈夫」と思っていた
最初に左胸の小さなしこりに気づいたのは、コロナ禍のころでした。乳がんといえば「動かない、硬いもの」というイメージがあった太田さん。触れるとコロコロと動くしこりについてインターネットで調べると、「動くものは大丈夫」という情報が目に入ったといいます。
「軽く考えていたわけではないんですけど、腕にもそういう小さいしこりがあったから、これと同じなんやって思っていたんですね」
体調にはまったく変化がありませんでした。当時は息子さんのことで心配が絶えず、目が向くのは子どものことばかり。気になって近所の乳腺外科に行ったものの、「予約がいっぱいで診られません」と言われてしまいます。
「それこそ、まあいっかって。自分のことは置いておいたんですよね。大丈夫やろって」
40代前半からは毎月内科に通い、血液検査や胸部のレントゲンも受けていました。「もし何かあったら写るかな」と思っていたそうです。けれど、しこりは少しずつ大きくなっていきました。「これはもう行かなあかん」。近くに新しくできた乳腺外科をすぐに受診すると、しこりを全部調べてもらい、「小さいがんがあるね」と告げられました。
「動くから大丈夫」と自分で判断しない
- 乳房のしこりには良性のものも多くありますが、触った感じだけで良性か悪性かを見分けることはできません。しこりに気づいたら、大きさや動き方にかかわらず、乳腺外科などで検査を受けましょう
- 一般的な血液検査や胸部のレントゲン検査は、乳がんを見つけるための検査ではありません。乳がん検診は、40歳以上は2年に1回のマンモグラフィが推奨されています
- しこりなどの症状があるときは、次の検診を待たずに受診しましょう。予約がとれないときは、別の医療機関を探すことも選択肢です
くわしくは「「検診」と「気になる症状」は別もの。乳房の変化に気づいたら」をご覧ください。
告知——「今まで頑張ってきたんやね」
告げられたとき、太田さんは大きなショックを受けなかったといいます。太田さんのがんは、ゆっくりと進むタイプでした。
「普通は『え?』って思うと思うんですけど、家のことがずっと大変やったし、心の立て直し方とか捉え方も勉強してきたから、ショックというよりは『え、そうなんや』みたいな感じで。先生も『じわじわ進んでいくやつで、今まで頑張ってきたんやね』と言ってくれて、ズーンと沈むこともなかったんです」
身内に乳がんになった人はおらず、自分がなるとは思っていなかったそうです。インストラクターとして体を動かし、食事にも気をつけていたつもりでした。
「いろんな原因があってなるんだと思うんですけど、私の場合は、子どものことで心労がすごくあったから。自分のことよりそっち、ずっとそんな感じで来ていたんで、自分を大事にできていなかったのかなって」
家族に伝える——そばで構えてくれた夫
病気のことを伝えたのは、夫だけでした。80代の両親には心配をかけたくないと、ずっと黙っているつもりだったといいます。のちに息子さんにも伝えましたが、母親が知ったのは、息子さんが実家に遊びに行ったときのことでした。
夫は、慌てることなくどんと構えていてくれました。
「『絶対大丈夫って思ってるから』みたいな感じで。私も全然ガーンっていうこともなく。最初の病院の先生もすぐ検査して大きい病院を紹介してくれて、そこの先生もチャキチャキ決めてくれて、すぐに手術の日も決まって。3、4か月でどーっと進んだから、落ち込む間もなく、ありがたく進んでいったかなって」
手術は、乳房の一部を切除する部分切除術。入院は2泊3日でした。「もうちょっとゆっくりさせてほしかった」と笑います。左腕は上がりにくくなるなど、体の変化もありました。
治療——副作用の出方は、人それぞれ
手術のあとは、毎日通う放射線治療を受けました。今は、ホルモン療法の飲み薬(タモキシフェン)と、飲み薬の抗がん剤(S-1)を続けています。抗がん剤は2027年1月ごろまで続く予定です。
がんの性質からは、抗がん剤を使わない選択肢もありました。それでも、「まだ若いから、飲んでおいたほうがいい」という医師の説明を受け、飲み薬での治療を選びました。
「どんな副作用が出るんですか?って、そればっかり聞いていたんですけど、先生が深刻な感じじゃなく、『あるけど、飲んでも大丈夫よ』って言ってくれたから、じゃあ飲んでみますって」
熱冷ましや下痢止めもたくさん処方されましたが、ありがたいことに、ほとんど使うことはなかったといいます。同じ薬を飲んでいる出場者仲間には、高い熱が続いて治療を休んでいる人もいて、「こんなに人って症状が違うんやな」と感じたそうです。食欲が落ちる日もありますが、体力を落とさないよう、食べることだけは意識しています。
乳房部分切除術と、手術後の治療
- 乳房の一部を切除する手術(乳房部分切除術)では、残った乳房からの再発を防ぐため、手術後に放射線治療を行うのが一般的です
- 手術後の薬物療法は、がんの性質(ホルモン受容体やHER2など)や再発のリスクに応じて決まります。ホルモン受容体陽性の乳がんでは、ホルモン療法を長期間続けることが多く、再発リスクに応じて抗がん剤を組み合わせることもあります
- 同じ薬でも、副作用の出方は人によって大きく異なります。気になる症状があるときは、治療を自己判断で中断せず、担当医や薬剤師に相談しましょう
海と空に、癒しとパワーをもらう
太田さんの心の支えになったのは、海や自然でした。放射線治療の期間は、夫が休みを合わせて付き添い、治療が終わるとそのまま須磨の水族館へ。シャチやイルカのショーを見て、海を眺めて帰る日々でした。
「そうやって癒してもらったから、家に引きこもることもなく。何か考えそうになったら、空を見るとか、自然のほうに気を向けて。今日の夕日めっちゃきれい、とか」
病気のことを調べすぎないようにしたのも、太田さんなりの向き合い方でした。
「調べだすと、調べて落ち込むのも嫌やなって。先生にお任せして、先生に従っていたら大丈夫って。最初に予約がいっぱいで断られた病院も、もし診てもらっていたらどうなっていたかわからない。断ってもらってよかったわって、今は思います」
「ギュッ」を緩める——病気が教えてくれたこと
結婚前は、エアロビクスなどのインストラクターとして大勢の前で指導していた太田さん。結婚してすぐに子どもが生まれ、生活は一変しました。「母であるから」と自分を後回しにする日々。コロナ禍の前、自分のために何かをしなければと、メディカルヨガとメディカルピラティスの学校に通い、心の持ち方やハーブ、アロマ、心理学なども学びました。
「ずっとなんで私がこんな思いしなあかんの?って。こんな辛いのいつまで続くんやろうって。それが徐々に徐々に緩んできたときに、病気がわかったんです。今や、今かって。もういいよ、緩めなさいっていう感じで」
今は「ご飯も絶対作っておかなあかん」と思っていたことも、「なんとかなるわ」と手放せるようになりました。ギュッと力が入っていたものを、ひとつずつ緩めていく。それが、今の太田さんの「勉強」だといいます。
ランウェイ「SPOTLIGHT」へ——自分から手を挙げた
病気のことは、身内と数人の友人にしか伝えていませんでした。そんな太田さんがランウェイを知ったのは、Instagramに流れてきた広告でした。
「ステージとかは全然興味がなかったんですけど、病気とか、つらいことがあった人が出るって書いてあって。気になるなと思っていたら何度も出てくるから、とりあえず主催のえりこさんに聞いてみようと思って」
問い合わせると、すぐにオンラインで話す機会がもうけられ、今の症状のことも含めて1時間ほど話し込んだといいます。
「えりこさんの人柄ですね。この人が主催するステージやったら出たいなって。私、ゲラやし、元気を与えることはたぶんできると思うんですよ。パワーを与えるっていうか、それが伝えられるんであれば出たいなって」
人前に立つのは、インストラクター時代以来。「目立ちたがり屋なのかもしれない」と笑います。ランウェイを決めてから、体も少し引き締まったそうです。今は、50〜60代にも人気だという、アイドルの振り付けを踊るダンスレッスンにも通っています。
「私ももう53歳で、人生の折り返し地点に入っているから、まだここから行くよって。病気になって、今緩めようっていう知らせをくれたのがこの病気やった。折り返し、まだまだ行くぞって伝えられたらいいかなと思います」
生き様を魅せるランウェイ「SPOTLIGHT」
- 日時:2026年11月13日(金)開場13:30/開演14:00
- 会場:大阪市中央公会堂
チケットなどの最新情報は、SPOTLIGHT公式サイトをご確認ください。→ IROHAのSPOTLIGHT紹介ページ
まだがんに直面していないあなたへ
「最初に病院に行ってから、いろんなことに対して『大丈夫、大丈夫、なんとかなる、なるようになる』って、ポジティブな言葉をできるだけ使うようにしてきました。主人にも、ネガティブなこと言わんとってって。言霊って大事やから。大丈夫と思ったら本当に大丈夫やし、あかんと思ったら本当にあかんから」
「誰でも落ち込むことはあるし、落ち込むときは落ち込んで、自分と対話して、そんなときもあるよなって。あんまり深刻になったらあかん。『私はついてる』とか、ポジティブな言葉をいっぱい自分に浴びせてあげて、前を向いて進んでいってほしいなと思います」
一方で、「がんの進み方やステージによって、感じ方は人それぞれ」とも話します。自分の経験を伝えながら、同じ立場の人を思いやる太田さん。これからは、介護の知識も生かして、年齢を重ねた人や体が動きにくい人に、体を動かす楽しさを届けられたらと考えています。
太田さんの発信・活動
太田さんのInstagramでは、お花や海、野球観戦など、好きなものに囲まれた日々が発信されています。
- Instagram(@ahsjshskd.132)——花や風景、野球観戦など、心が和らぐ日々の彩り
- ランウェイ「SPOTLIGHT」公式サイト
IROHAから読者へのメッセージ
- しこりに気づいたら、「動くから」「痛くないから」と自己判断せず、乳腺外科などで検査を受ける
- 内科の血液検査やレントゲンとは別に、年齢に応じた乳がん検診を受ける
- 家族のことで忙しいときほど、自分の体の変化を後回しにしない
- 副作用やつらさは我慢せず、担当医や薬剤師、「がん相談支援センター」に相談する
IROHAは、特定の治療法や医療機関を推奨・保証する立場ではありません。一人ひとりが必要な情報を知り、納得して選べるよう、体験談や情報を届けていきます。
「がんの情報」の出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」「乳がん 治療」「乳がん検診」「がん相談支援センターで相談できること」(情報確認日:2026年10月17日)
この体験について、さらに深く知る
体験談から情報の整理、そして相談へ。3つのステップでつながります。