4人の娘を育てながら、子どもたちに書道を教えている谷 弥生さん。45歳のとき、2年に1回ほど受けていた人間ドックで乳がんが見つかりました。抗がん剤治療、手術、放射線治療、分子標的薬による治療を経て、今はランウェイ「SPOTLIGHT」に向けて準備を進めています。

「ウィッグが取れたことによって、みんなと同じになれたっていう。そこから外にも行けるように、自分に自信を持てるようになりだして」

自覚症状のないまま受けた検査。「がん=死」だと思っていた告知の日。治療が一段落したあとに訪れた孤独。そして、ハンドメイドやフラダンス、書道を通して少しずつ自分を取り戻していった日々。CHALLENGER #15として出場する弥生さんに伺いました。

プロフィール
  • 谷 弥生さん(Instagramでは「サワちゃん」)。4人の娘の母。書家・書道講師、日本習字教授師範。ハワイアンハンドメイド作家としても活動
  • 45歳のとき、人間ドックで乳がんが見つかる。当時、長女は高校生、末の娘は小学2年生
  • 抗がん剤治療のあとに手術を受け、その後、放射線治療に加えて、分子標的薬による治療を約1年半続けた
  • 2026年11月13日、ランウェイ「SPOTLIGHT」に出場(CHALLENGER #15)

発病前——自分のことは、いつも後回し

子育ての期間が長かった弥生さん。子どもの病気で病院に行くことはあっても、自分のための受診はずっと後回しにしていたといいます。

「自分のことはあまり大事にしてなかったというか、人のために動くことがいいことやとも思い込んでて。家族がいるし、こうしないといけないとか、自分の中で固定概念が強い方だったので、我慢しがちな性格ではありました」

めまいが頻繁に起きることはあったものの、自覚症状はありませんでした。のちに思えば、手の引きつれやしびれもあったそうですが、当時は気にとめていなかったといいます。

発見——人間ドックで、先生が見つけたしこり

2年に1回ほど受けていた人間ドック。違和感があったわけではなく、「受けておこうか」という気持ちでした。乳腺の診察のとき、医師に「ここを触ってみて」と言われます。

「乳房の下の方だったんで、本当に自分ではわからなくて。触ったら、しこりみたいな。確かにって感じで」

その場で超音波(エコー)検査を受け、「怪しい」と判断されて、その日のうちに針生検へ。考える余地もないまま、検査が進んでいきました。結果が出るまでには1週間以上かかりましたが、弥生さんの中では「間違いないかな」という予感があったといいます。

がんの情報

自覚症状がなくても、検診を

  • 乳がんは、しこりの場所や大きさによって、自分では気づきにくいことがあります
  • 乳がん検診は、40歳以上は2年に1回のマンモグラフィが推奨されています。しこりなどの症状があるときは、次の検診を待たずに乳腺外科などを受診しましょう
  • 乳房の検査では、超音波検査やマンモグラフィで疑わしい部分が見つかった場合、針で組織をとって調べる「生検」で診断を確かめます

くわしくは「「検診」と「気になる症状」は別もの。乳房の変化に気づいたら」をご覧ください。

告知——「がん=死」だと思っていた

人間ドックのあとには食事がついていましたが、のどを通りませんでした。

「子どもたちの顔ばっかり思い浮かべて。まだまだ成長も見たいですし。周りにがんの人がいなかったんで、がんイコール死みたいなイメージがあって。乳がんにそんな若い人がなるっていうのも知らなかったんで。でも、ただ生きたいって思って」

結果は一人で聞きに行きました。幸い、がんはとても小さいものでした。乳がんにはいくつものタイプがあることも、そのとき初めて知ったといいます。タイプは後日くわしく調べることになり、医師は「大丈夫」と声をかけてくれました。

「でも、そこは信じきれなかったというか。やっぱり不安の方が大きくて」

調べて、聞いて、つながる

最初に打ち明けたのは、夫と、自分のきょうだいや親でした。弥生さんは「自分で調べるタイプ」。インターネットで深く検索するうちに、知ることで不安が大きくなることもあったといいます。

母に話すと、実は叔母も2年ほど前に乳がんの治療を受けていたことがわかりました。直接聞いて「どんな感じやった?」とくわしく聞くと、叔母はすっかり元気に過ごしていました。

大きな支えになったのは、Instagramでした。のちにランウェイを主催するえりこさんや、はづきさん、抗がん剤治療中にキックボクシングをしている人の姿も目にしました。

「同世代の方がこんなにいらっしゃるのもわからなかったんで。抗がん剤をしながらも普通に生活してる姿を見て、あ、そうなんやって。結構逆に衝撃で。それが全てですね。そこが大きくて」

治療——抗がん剤、手術、放射線、分子標的薬

治療は、点滴の抗がん剤から始まりました。吐き気はなく、お腹を少し壊す程度で、体の副作用は比較的軽かったといいます。ただ、弥生さんの場合、思考力や記憶力の低下を自分でもはっきり感じるほどでした。

「そのために頑張ったのに、家族と過ごしてきた日々が途切れ途切れで。普通じゃないなと思うんですけど、冷静に見れない自分もいて。普通に考えたら悩むことでもないことを、姉に何回も連絡したりして。すごい普通の状態ではなかったんですよね」

抗がん剤のあとに手術を受け、がんは切除できました。けれど、その後も放射線治療を受け、がんのタイプから分子標的薬による治療も1年半ほど続きました。抗がん剤治療中は仕事を休みましたが、書道教室は比較的早い段階で再開できたそうです。

がんの情報

乳がんの治療の順番は、がんの性質で決まる

  • 乳がんでは、がんの性質(ホルモン受容体やHER2など)や進行の程度によって、手術の前に薬物療法を行うことがあります
  • 手術のあとも、がんの性質に応じて、分子標的薬やホルモン療法などを一定期間続けることがあります
  • 抗がん剤治療中や治療後に、物忘れや集中しにくさを感じる方もいます。気になる変化があるときは、一人で抱え込まず担当医や看護師に伝えましょう

関連記事:「乳がんの「サブタイプ」を解説」「乳がんの治療はどう決まる? ステージと「がんの性質」で変わる選択肢」

治療のあとに訪れた、孤独

手術が終われば、治療も終わる。そう思っていた弥生さんにとって、本当につらかったのはその後でした。診断から半年ほどのころです。

「手術が終わった目途に、私はもう終わったんやっていう気持ちでいたのに、すごい孤独感とか。精神的にそこからがしんどかったんです。髪の毛も全部抜け落ちて、ウィッグの期間が1年半ぐらいあったので、自分的には自信も全てなくなってしまって」

Instagramで見つけた手ごろでかわいいウィッグを、長さが急に変わらないよう定期的に替え、自分でカットもして、自然に見えるよう工夫しました。周りにはほとんど気づかれず、書道の生徒さんにも病名は伝えていませんでした。それでも、人に会いたくない気持ちから、引きこもりがちだったといいます。

家族は、思っていた以上にいつも通りでした。子どもたちも明るく、夫も変わらずに過ごしてくれました。

「それが良かったんですけど、私的には逆に自分だけ孤独を感じて。より一人で苦しんでるような感じに陥って、家族とぶつかることもありました」

自分を取り戻す——ハンドメイド、フラダンス、書道

前を向くきっかけは、ウィッグが取れ、自分の髪で過ごせるようになったことでした。

「がんの人と、がんじゃない人って、自分で勝手に線引きをしてたのかな。ウィッグが取れたことによって、みんなと同じになれたっていう」

もともと続けていたハンドメイドのイベント出展を再開し、「自分がしてきたこと」を思い出しながら、自分を取り戻す行動を始めました。ハワイアンのイベントで、7年ほど離れていたフラダンスに再び出会い、ちょうど1年前に初めての発表会へ。「そこから激変していった」と振り返ります。

書道でも、去年から自分の作品を展覧会に出すようになりました。大人に自分の気持ちを話すのは苦手だという弥生さん。これからは、色を使った絵にも挑戦して、自分の内側にあるものを表現していきたいと話します。

着物姿で筆を持ち、作品を書く谷 弥生さん
展覧会で、掛け軸の書作品「龍躍鳳翔」の横に立つ谷 弥生さん

書道の作品づくりと、展覧会に出品した作品「龍躍鳳翔」

治療費のこと——知っておきたかった制度

がん保険には入っていなかった弥生さん。治療費は、夫の健康保険で「限度額」の申請をし、窓口での支払いを上限額までにおさえました。それでも費用は気がかりで、「その分は仕事を頑張って稼がないといけない」と自分に言い聞かせていたといいます。

「お金に対しての負い目もちょっと感じてしまって。そこは考えなくていいよっていう何かがあれば、気分も違うのかなって」

治療をきっかけに、がんになってからでも入れる保険を自分で調べて加入しました。ただ、選択肢は少なく、保険料が高いものもあったそうです。医療用ウィッグの助成も調べましたが、住んでいる市では実施されていませんでした。

制度の情報

医療費の上限と、ウィッグの助成

  • 健康保険には、1か月の医療費の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」があります。マイナ保険証や「限度額適用認定証」を使うと、窓口での支払いを上限額までにできます
  • 高額療養費制度は、2026年8月と2027年8月の2段階で見直されます。くわしくは「【保存版】高額療養費制度の2段階見直し」をご覧ください
  • 医療用ウィッグの助成は、自治体によって有無や条件が異なります。「医療用ウィッグの助成金を探す」から、お住まいの地域の情報を確認できます

ランウェイ「SPOTLIGHT」へ——鳥肌もののご縁

ランウェイへの出場は、思いがけないタイミングで決まりました。はづきさんのラジオを聴こうと思った前日、弥生さんはえりこさんのInstagramで、11月13日に何かが開かれることを知ります。そして翌朝、ラジオを聴き始めて5分ほどたったころ、1か月以上連絡をとっていなかったはづきさんから、LINEが届きました。

「しかも『今えりこさんと一緒にいてます』って。えりこさんが私とつながりたいってなって、教えてもいいですかって。そしたら、そのイベントのことだったんですよ。もうこれは自分の為のイベントかなと思って」

病気のことをSNSで発信し始めたのも、このランウェイがきっかけでした。「がんになっても恥じることはないし、堂々と自分らしく生きたらいい」というえりこさんの言葉に、「隠すことじゃないんやな」と思えたといいます。

1分間のスピーチに込めるのは、3つの思いです。

「ここまで立ち直れた、自分を取り戻せたっていう感謝と、今闘ってる人や暗闇にいる人に、ここまで立てている自分を見て勇気を持ってもらえたらっていう思い。そして、自分も変わりたいっていう気持ち」

20代のころ、パニック障害で外に出ることさえ怖くなった経験もある弥生さん。その経験も乗り越えてきましたが、まだ引きずっている部分もあるといいます。ランウェイに立つことで、それも克服したい。感謝を伝えたいのは、そのとき関わってくれたすべての人です。「自分が立ち直れたのは、周りの人たちがあってこそ。自分だけの力じゃないので」。

SPOTLIGHT CHALLENGER #15 谷 弥生
生き様を魅せるランウェイ SPOTLIGHT 2026年11月13日(金)大阪市中央公会堂 開場13:30・開演14:00
イベント情報

生き様を魅せるランウェイ「SPOTLIGHT」

  • 日時:2026年11月13日(金)開場13:30/開演14:00
  • 会場:大阪市中央公会堂

チケットなどの最新情報は、SPOTLIGHT公式サイトをご確認ください。→ IROHAのSPOTLIGHT紹介ページ

「自分を大切にしよう」——180度変わった考え方

「こうしないといけない」と自分をしばっていた考え方は、病気をきっかけに180度変わったといいます。なぜがんになったのか、何がいけなかったのかと、自分を問いただした時期もありました。Instagramで、闘病中の人の発信や、考え方を変えることについての発信を見て、救われたこともあったそうです。

「せっかく助かったし、命があるってことは、楽しんで生きないともったいないですし。自分を大事にするってことを、自分で認めてなかった部分もあって。だけど、自分を大切にしようって思えるようにもなりました」

再発への不安は、今も消えたわけではありません。担当医のもとで定期的に検査を受けながら、少しでも不調があれば早めに病院に行くようにしています。食事では添加物に気をつけるようになり、落ちた筋力を取り戻そうとジムにも通い始めました。「できることはやろう」という気持ちだといいます。

まだがんに直面していないあなたへ

「私もですけど、自覚症状とかも全くないですし、若いとか、今だったらまだならないとかいうのはないと思うので、ぜひ、症状がなくても検診には絶対に行っておいてほしいと思います」

弥生さんの発信・活動

弥生さんのInstagram「サワちゃん」では、書道の作品やハワイアンハンドメイドのアクセサリー、フラダンスなど、自分らしい表現の日々が発信されています。書道教室は現在、ありがたいことに満席だそうです。アクセサリー「pumehana.y」は、イベント出展を中心に販売しています。

素敵なご縁をいただきました サワちゃんさん yayoi.t_sawa 書家・書道講師/ハワイアンハンドメイド作家 書と手しごとで、自分らしい表現を。IROHAはサワちゃんさんの活動を応援しています
青い貝殻やヒトデをあしらったハワイアンハンドメイドのピアス・イヤリング(pumehana.y)

IROHAは、弥生さんの活動を応援しています

発信・活動

IROHAから読者へのメッセージ

この体験から、いまできること
  • 自覚症状がなくても、年齢に応じた乳がん検診を受ける
  • 治療中や治療後に、記憶や気持ちの変化を感じたら、一人で抱えず担当医や看護師に伝える
  • 治療が一段落したあとの孤独やつらさも、「がん相談支援センター」などで相談できる
  • 医療費やウィッグの費用は、高額療養費制度や自治体の助成など、使える制度を早めに確認する

IROHAは、特定の治療法や医療機関を推奨・保証する立場ではありません。一人ひとりが必要な情報を知り、納得して選べるよう、体験談や情報を届けていきます。

本記事は、谷 弥生さんへのインタビュー内容をもとに、読みやすさを考慮して構成・編集しています。語り手の言葉は、意味を変えない範囲で表現を整えています。治療の経過や副作用の出方は個人の体験であり、すべての方に同じ経過が当てはまるものではありません。食事や運動などの取り組みは、がんの治療効果や再発予防を保証するものではありません。治療方法の選択や変更・中止、検査の頻度は自己判断せず、必ず担当医など医療者にご相談ください。
「がんの情報」の出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」「乳がん 治療」「乳がん検診」「がん相談支援センターで相談できること」(情報確認日:2026年10月21日)

この体験について、さらに深く知る

体験談から情報の整理、そして相談へ。3つのステップでつながります。

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3 適した先生を提案してもらう

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