このたびの震度7クラスの地震により、被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

まずは、ご自身とご家族の安全を最優先に確保してください。今後も同程度の余震が続く可能性があります。落ち着いて、無理のない行動を心がけましょう。

そのうえで、がん治療を受けている方・ご家族には、一般的な防災とは別に、どうしても知っておいていただきたいことがあります。それは、災害時にもっとも命に関わりやすいのは「倒壊」や「津波」だけでなく、「治療が止まってしまうこと」だという事実です。

抗がん剤、放射線治療、術後管理、在宅療養、緩和ケア、ストーマ、CVポート、在宅酸素——治療の形はさまざまですが、共通しているのは「毎日の医療が途切れると命に関わる」という点です。

この記事では、不安を煽ることなく、しかし正しい危機感を持って、今日この場でできる備えを具体的にお伝えします。読み終えたときに「まず何をすればいいか」がわかり、実際に手を動かしていただけるように構成しています。ご家族と一緒に、ぜひ最後まで読んでみてください。

1. 今回の地震について、まず知っておきたいこと

今回、震度7クラスの大規模な地震が発生しました。

  • 今後も同規模・中規模の余震が続く可能性があります。棚の上のもの、割れやすいものの近くでは十分注意してください。
  • 停電・断水・通信の乱れが起きている地域があります。回復までに時間がかかる場合があります。
  • まずは命を守ることが最優先です。安全な場所を確保できたら、この先の内容を読み進めてください。

治療のことが気になるお気持ちはよくわかりますが、避難の判断や身の安全よりも治療の心配を優先しないでください。安全が確保できてから、次のステップに進みましょう。

2. なぜ「がん患者」にとって災害対策が特別に重要なのか

一般的な防災対策(水・食料・懐中電灯など)は、がん患者さんにももちろん必要です。しかし、それだけでは足りません。理由は、がん治療が「毎日・毎週・決まったタイミングで続けることに意味がある治療」だからです。

災害時、がん患者さんの体調や命に直接影響しうるリスクには、次のようなものがあります。

  • 治療の中断:抗がん剤・放射線治療は、スケジュール通りに行うことで効果が保たれます。中断が長引くと、治療計画そのものの立て直しが必要になることがあります。
  • 薬が手に入らない:痛み止め、制吐剤、免疫抑制剤などが、断続的にしか入手できなくなる可能性があります。
  • 病院機能の停止:通っている病院が被災し、外来・検査・点滴治療が一時的に受けられなくなることがあります。
  • 道路の寸断:通院や薬の受け取りに行けなくなることがあります。
  • 停電:在宅酸素、輸液ポンプなど、電源が必要な医療機器を使っている方は特に注意が必要です。
  • 感染症リスクの上昇:避難所などの集団生活では、抗がん剤治療中で免疫力が下がっている方は感染しやすく、重症化しやすい傾向があります。

これらは「起きるかもしれない」ことであり、「必ず起きる」ことではありません。ただし、事前に備えておけば影響を大きく減らせることも事実です。だからこそ、平常時からの準備が力になります。

3. 自分の災害リスクを確認する チェックリスト

まずは、ご自身が「どのくらい備えが必要な状態か」を確認しましょう。当てはまるものにチェックを入れてみてください。

3つ以上チェックがついた方は、この記事の内容を今日中に一つでも実行することを強くおすすめします。

4. 治療内容別・気をつけたいポイント

治療の種類によって、注意すべきポイントが異なります。ご自身やご家族に当てはまる項目を確認してください。

抗がん剤治療中の方

  • 発熱時は特に注意が必要です(後述の「症状チェック」を参照)。避難所などの人混みではマスクと手指消毒を徹底してください。
  • 制吐剤・整腸剤などの補助薬も、抗がん剤本体と同じくらい重要です。予備を切らさないようにしましょう。

放射線治療中の方

  • 治療スケジュールが数日〜数週間空くと、効果に影響することがあります。治療先の病院と連絡が取れない場合は、近隣の医療機関や自治体窓口に「がん放射線治療中」であることを伝え、相談してください。
  • 照射部位の皮膚が敏感になっていることがあります。避難時の擦れや汗にも注意してください。

手術後の方

  • 創部(傷口)の感染に注意してください。消毒用品・ガーゼは多めに備えておくと安心です。
  • 無理な力仕事や長時間の移動は、術後の状態によっては負担になります。

在宅療養・緩和ケア中の方

  • 痛み止めが切れることが、大きな苦痛につながります。普段より多めの予備を確保しておきましょう。
  • 訪問診療・訪問看護の連絡先を、家族全員が見える場所に控えておいてください。

ストーマをお使いの方

  • パウチ・面板などの装具は、最低1週間分を持ち出し袋に入れておきましょう。
  • 断水時の交換・洗浄方法について、事前に主治医や看護師に確認しておくと安心です。

CVポートをお使いの方

  • ポートの位置・使用薬剤の情報を医療情報カードに明記しておいてください。
  • ヘパリンロックなどの定期処置が必要な場合、間隔が空いた際の対応をあらかじめ確認しておきましょう。

在宅酸素療法をされている方

  • 停電時の対応が最重要です。酸素ボンベの予備、バッテリーの充電状況を日頃から確認してください。
  • 停電が発生した場合の連絡先(酸素業者・訪問診療先)を、電話が使えなくても分かるよう紙で控えておきましょう。

5. 「医療情報カード」を今すぐ作る

災害時、意識がもうろうとしていたり、家族と離れていたりする状況では、自分の病状を口頭で正確に伝えるのが難しいことがあります。そのために役立つのが「医療情報カード」です。

財布やお薬手帳に挟んでおける小さなカードに、以下の情報をまとめておきましょう。

  • 氏名・生年月日
  • 病名・治療内容(例:大腸がん 化学療法中〈FOLFOX療法〉)
  • アレルギー
  • 主な薬剤名
  • 主治医・医療機関名
  • 緊急連絡先(家族の名前・電話番号)
医療情報カードのイメージ
医療情報カードのイメージ。氏名・病名・治療内容・アレルギー・主な薬・主治医・緊急連絡先をまとめておくと、災害時に自分の状態を素早く正確に伝えられます。

このカードは、あなたが説明できない状況でも、周囲の人やスタッフがあなたを守るための助けになります。ご家族と一緒に、今日中に1枚作っておきましょう。

6. 医療用持ち出し袋を準備する

一般的な防災リュックとは別に、「医療用」の持ち出し袋を用意しておくことをおすすめします。普段使っているカバンや小さめのバッグで構いません。

薬とお薬手帳のイメージ
薬とお薬手帳のイメージ。普段の薬をそのまま持ち出せるよう、予備をまとめておくと安心です。

医療用持ち出し袋に入れておきたいもの

  • お薬手帳・医療情報カードのコピー
  • 現在服用中の薬(最低1週間分、可能であれば2週間分)
  • 体温計・マスク
  • 消毒用品・ガーゼ・テープ
  • モバイルバッテリー
  • 保険証・診察券のコピー
  • ストーマ装具、酸素関連用品など、治療に応じた必需品(該当する方)
医療用持ち出し袋の中身
医療用持ち出し袋の中身。お薬手帳・医療情報カード、予備薬、体温計・マスク、消毒用品、ガーゼ・テープ、モバイルバッテリー、保険証・診察券のコピーなどをひとまとめにしておきましょう。

薬は「切れそうになってから」ではなく、「常に予備がある状態」を保っておくことが大切です。次回の受診時に、主治医へ災害時用の予備処方について相談してみてください。

7. 避難所・医療スタッフに伝えるべきこと

避難所や臨時の医療救護所では、限られた時間の中で多くの方の対応にあたっています。ご自身の状態を的確に、短く伝えられるよう準備しておきましょう。

避難所で医療スタッフに状況を伝える様子
避難所で医療スタッフに状況を伝える様子。医療情報カードを見せながら話すことで、短時間でも正確に状態を伝えられます。

伝えるべきポイント

  • がん治療中であること
  • 感染症のリスクがあること(抗がん剤治療中は特に)
  • 毎日必要な薬があること
  • 医療機器を使用していること(在宅酸素・CVポートなど)
  • 痛み止めが切れるとつらくなる可能性があること
  • 配慮してほしいこと(横になれる場所、食事制限、電源の確保など)

これらは、口頭で伝えるのが難しい場面でも、医療情報カードを見せるだけで伝えられるようにしておくと安心です。

8. すぐに医療機関へ連絡・受診すべき症状

以下のような症状が出た場合は、我慢せずに、できるだけ早く医療機関・救護所に相談してください。特に抗がん剤治療中の発熱は、命に関わることがあるため注意が必要です。

緊急時に注意すべき症状
緊急時に注意すべき症状。いずれかに当てはまる場合はすぐに相談してください。
今すぐ相談すべきサイン
  • 38℃以上の発熱
  • 息苦しさ・胸の痛み
  • 強い痛み・吐き気
  • 嘔吐・下痢が続く
  • 水分が取れない
  • 意識がもうろうとする
  • 傷口の異常(腫れ・出血)
  • 息が極端に苦しい
  • けいれん
  • 通っている医療機関の再開見込みが分からない

「これくらいで連絡していいのかな」と迷った場合でも、遠慮せず相談してください。早めの連絡が、重症化を防ぎます。

9. 家族と共有しておきたいこと

がん治療は、患者さん一人で抱え込むものではありません。ご家族が治療内容や緊急時の対応を知っていることが、いざという時の大きな支えになります。

家族で情報を共有している様子
家族で情報を共有している様子。治療内容・薬・緊急連絡先を家族みんなで把握しておくと、本人が動けない時にも適切な対応ができます。

家族で確認しておきたいこと

  • 現在の治療内容・薬の名前と保管場所
  • 主治医・医療機関の連絡先
  • 医療情報カード・お薬手帳の保管場所
  • 持ち出し袋の置き場所
  • 停電・断水時に特に注意すべきこと(在宅酸素・CVポートなど)
  • 災害時に集合する場所、連絡が取れない場合の対応方法

一人で全部を覚えておく必要はありません。「誰か一人が知っていればいい」ではなく、「家族みんなが知っている」状態を目指しましょう。

まとめ:今日、これだけはやっておこう

災害対策チェックリストのイメージ
災害対策チェックリストのイメージ。医療情報カードの作成、お薬手帳の準備、予備薬の相談、持ち出し袋の準備など、一つずつ確認していきましょう。

震度7クラスの地震は、決して他人事ではありません。そして、がん治療を続けている方にとって、災害への備えは「特別なこと」ではなく「治療の一部」だと考えていただきたいのです。

今日、まずはこれだけやってみましょう。

すべてを一度にやる必要はありません。一つずつ、できるところから始めてください。その積み重ねが、あなたと大切なご家族の命と治療を守ります。

IROHAは、これからもがん患者さんとご家族に寄り添った情報発信を続けてまいります。何かご不安なことがあれば、主治医、医療機関、自治体の相談窓口にご相談ください。

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※参考:厚生労働省・各自治体の防災情報、日本癌治療学会などの関連情報も、あわせてご確認ください。

関連動画:南海トラフ地震について知る

今後の備えとして、南海トラフ地震に関する専門家の解説動画もあわせてご紹介します。今回の地震との関係や、今後注意すべきポイントを理解するうえで参考にしてください。

南海トラフ地震・富士山噴火との関係(楽待 RAKUMACHI)
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動画:「【鎌田浩毅の緊急解説】南海トラフ地震・富士山噴火との関係/『直下型地震』増加に備えよ」(提供:楽待 RAKUMACHI 様)
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本記事は、災害時にがん患者さんとご家族が安全に治療を継続するための一般的な情報提供を目的としており、個別の病状・治療方針についての医学的助言を行うものではありません。実際の治療の継続・中断・再開に関する判断は、必ず主治医・医療機関にご相談ください。IROHAは医療機関ではありません。また、災害の状況は刻々と変化します。最新の避難情報・医療機関の稼働状況については、お住まいの自治体・消防・医療機関からの公式発表を必ずご確認ください。掲載している動画の内容はIROHAが作成したものではなく、その正確性についてIROHAが保証するものではありません。