抗がん剤治療を続けるなかで、食欲の低下、喉の痛み、咳、飲み込みにくさ、下痢や便秘、体力の低下など、さまざまな副作用に悩む方がいます。
しかし、「治療に必要なことだから我慢しなければ」「主治医にどのように相談すればよいのかわからない」と、不調を抱えたまま過ごしている患者さんも少なくありません。
今回は、漢方を活用した抗がん剤治療の副作用緩和ケアに取り組む、ライトクリニック銀座院長の井出先生に、漢方がどのように役立つのか、使用を考えたときに何に注意すべきかを伺いました。
副作用だけを見るのではなく、治療を続けるための土台を整える
抗がん剤治療の副作用に対して、漢方はどのように役立つのでしょうか。
近年は、抗がん剤治療に伴う副作用のケアに漢方を取り入れる医師が増えてきました。「この副作用にはこの漢方薬」という情報も広がっていますが、実際の診療では、症状と薬を単純に結びつけるだけでは十分ではありません。
当院へ来られる患者さんのなかには、すでに手術、放射線治療、薬物療法など、さまざまな治療を受け、体力や消化機能が低下している方もいらっしゃいます。そのため、副作用そのものを和らげることに加え、食事から栄養を取り込める状態を整え、落ちている体力を支えていくことが大切です。
例えば、咳が止まらない、喉がヒリヒリする、飲み込みにくいといった症状がある場合、その部分の炎症への対応を考えます。一方で、飲み込みにくさや消化機能の低下によって十分な栄養が取れなくなっていれば、胃腸の働きを支えることも必要です。
つまり漢方による副作用ケアでは、現れている症状と、患者さんの体力・食欲・消化機能などを同時に見ながら、全身の状態を調整していきます。
「食欲がない」「つらい」と、そのまま主治医に伝えてよい
漢方を使ってみたい場合、主治医にはどのように相談すればよいのでしょうか。
難しく考えず、まずは現在困っていることを率直に伝えてください。
「食欲が落ちています」「この症状が苦しくて困っています」「役立つ漢方はありますか」と主治医に相談して構いません。抗がん剤治療の副作用に漢方を活用する考え方は、以前より広く知られるようになっています。
ただし、漢方は症状名だけで一律に選ぶものではありません。漢方医学では、その方の体力、水分の状態、冷えや熱の傾向、胃腸の状態などを総合的に見極めます。同じ「食欲不振」でも、その背景によって選択する処方は変わります。
主治医が漢方を専門としていない場合は、がん治療の領域に理解があり、漢方を得意とする医師への相談を検討することも一つの方法です。大切なのは、現在受けている治療や服用中の薬を共有したうえで、患者さん一人ひとりの状態に合わせて判断することです。
「自然由来だから安全」とは限らない
漢方についてさまざまな情報があります。何を信じればよいのでしょうか。
漢方薬は植物など自然由来の生薬からつくられているため、「副作用が少ない」「体にやさしい」と思われがちです。しかし、漢方薬も医薬品です。
服用したものは体内で代謝されます。また、抗がん剤治療を受けている方は、治療薬以外にも複数の薬を服用している場合があり、薬同士の相互作用にも注意が必要です。
そのため、市販の漢方薬を自己判断で加えるのではなく、現在の治療内容や服用薬を把握している医師へ相談し、必要に応じて検査を行いながら、副作用や体調の変化を確認して服用することが重要です。
インターネット上の情報や「この症状にはこの漢方」という情報だけで決めず、自分の状態に合っているかを専門家と一緒に確認する。それが、安全に漢方を取り入れるための基本になります。
漢方薬を検討するときに確認したいこと
- 現在受けているがん治療の内容と、服用中のすべての薬(市販薬・サプリメントを含む)を医師に伝える
- 「自然由来だから安全」と自己判断せず、必ず医師・薬剤師に相談してから使用する
- 体力・水分状態・冷えや熱の傾向など、自分の体質に合った処方かどうかを専門家と確認する
- 服用後の体調変化(症状の改善・新たな不調)を記録し、次の診察で共有する
食欲と消化機能を整え、体力を支えることは漢方の得意分野
食欲や体力が落ちたとき、漢方でできることはありますか。
食欲の低下や消化機能の不調に対応し、体力を支えることは、漢方が力を発揮しやすい領域の一つです。
体が栄養を取り込めなければ、元気を保つことは難しくなります。そこで、まず消化機能を整えることを考えます。ただし、下痢があるのか、便秘があるのか、熱や咳など別の症状もあるのかによって、必要な対応は異なります。
患者さんのその時々の状態を確認しながら、複数の症状と全身状態に合わせて処方を組み立て、治療を続けるための体力を支えていく。それが漢方によるケアの特徴です。
体だけでなく、緊張や心の状態にも目を向ける
がんと向き合う生活では、治療への不安や緊張が続き、心身ともに力が入り続けてしまうことがあります。
井出先生は、患者さんの身体症状だけでなく、心の状態にも目を向けています。診療では、体の過度な緊張を和らげることや、血流の状態を整えることも意識しながら、患者さん全体を捉えて処方を検討していると話します。
漢方の役割は、一つの症状だけを切り取って抑えることに限りません。症状の背景にある体力、消化機能、栄養状態、睡眠や心身の緊張などを含め、その方が少しでも過ごしやすい状態を目指して調整していくことにあります。
副作用を我慢せず、まずは相談することから
今回のお話から見えてきたのは、「どの漢方薬を選べばよいか」を患者さん自身が探し続けるよりも、まず現在のつらさを医師に伝えることの大切さです。
副作用への対応は、症状名だけで決まるものではありません。同じ症状でも、体力や胃腸の状態、ほかの症状、現在の治療内容や服用薬によって、適切な対応は変わります。
食欲がない、体がつらい、喉が痛い、咳が続く――。そのような変化を「治療中だから仕方がない」と我慢せず、まずは主治医へ伝えてみてください。必要に応じて、がん治療と漢方の双方に理解のある医師へ相談することも選択肢になります。
漢方を安全に活用する第一歩は、自己判断で始めることではなく、自分の状態を専門家と共有し、一緒に考えることです。
井出先生に、ご自身の症状について相談する
抗がん剤の副作用や漢方でのケアについて、井出先生に個別にご相談いただけます。あわせて、症状別に整理した特集ページもご覧いただけます。
井出先生の特集ページを見る →編集部より:本記事は、井出先生へのインタビュー内容を読みやすく再構成したものです。漢方を含む治療や副作用への対応は、患者さんの状態や治療内容によって異なります。現在の治療を中断・変更したり、漢方薬を自己判断で追加したりせず、必ず主治医または専門知識を持つ医療者へご相談ください。
