30年以上、看護師として患者さんやスタッフのために走り続けてきた加藤 詩絵さん。看護部長として新しい病院に移り、責任とプレッシャーの中で心が限界を迎えていた2026年、乳がんが見つかりました。

「乳がんになって良かったとは思わないですけど、この病気が私を休ませてくれたんかなって、振り返ったら思ってます」

手術、放射線治療、体に合わなかった抗がん剤、顔に出た色素沈着。そしてSNSでつながった仲間の中で、少しずつ前を向けるようになった日々。2026年11月、ランウェイ「SPOTLIGHT」にCHALLENGER #7として出場する加藤さんに、これまでの歩みと、今伝えたいことを伺いました。

プロフィール
  • 加藤 詩絵さん/50代。看護師として30年以上勤務し、病院の看護部長も務めた
  • 2026年、50歳のときに乳がん(ステージ2、しこりは約2cm)と診断。乳房部分切除術、放射線治療を受け、現在はホルモン療法を続けている
  • 治療をきっかけに病院を退職。現在はInstagramで乳がんの経験を発信している
  • 2026年11月13日、ランウェイ「SPOTLIGHT」に出場(CHALLENGER #7)

発症前——看護部長として、自分をずっと後回しにしていた

看護師として、がんのことはある程度知っていました。加えて、お父さまが51歳でがんになり、55歳で亡くなっています。「自分もなるかもしれない」と警戒し、2年に1回、乳がん検診も受けていました。

発症の少し前、加藤さんは役職が上がる形で別の病院に移りました。看護部長という、初めて経験するポジション。責任もプレッシャーも大きく、環境もまったく違いました。

「しんどかろうが、自分よりも病院のこと、スタッフのこと、患者さんのことが先で、自分はずっと後回しにしてたっていう感じ。しんどいっていうのを認めたくなかったんです」

半年ほど経つと、歯みがきやお風呂といった当たり前のことが、とてもハードルの高いことに感じられるようになりました。それでも「受診したら迷惑をかけるんじゃないか」と病院に行けず、仕事を続けるうちに、適応障害と診断されるほど心が疲れきっていたといいます。

発見——お風呂で気づいたしこりと、背中を押した妹の言葉

しこりに気づいたのは、お風呂に入っていたときでした。「こんなところに、こんなしこりあったかな」。前回の検診から、ちょうど2年が経とうとしていた頃です。

「がんじゃないかなって思いました。でも、認めたくなくて。もしがんだったら手術して入院して……今そんなことしてられないって思ってしまったんです。人にはすぐ検診に行けって言ってた立場なのに、いざ自分になったら、やっぱり自分は後回しでした」

痛みなどの症状はありませんでした。様子を見ているうちに2か月ほどが過ぎた頃、妹さんと出かけた温泉でしこりのことを打ち明けると、「こんなん言ってられへんよ、早く行って」と強く背中を押されます。すぐに予約を取り、翌週には受診。検査には妹さんも付き添ってくれました。

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検診と検診のあいだに、気になる変化があったら

  • 定期的に検診を受けていても、次の検診までの間にしこりなどの変化に気づくことがあります
  • しこり、乳房のひきつれやくぼみ、乳頭からの分泌物など、気になる変化があるときは、次の検診を待たずに乳腺外科などを受診しましょう

くわしくは「「検診」と「気になる症状」は別もの。乳房の変化に気づいたら」をご覧ください。

告知——「休める」と思った日

診断は、ほぼ予想していたとおりの乳がんでした。そのとき、加藤さんの胸に浮かんだのは、意外な気持ちだったといいます。

「あ、休めるって思ったんです。30年以上看護師を続けてきて、長期の休みも取ったことがなかったし、自分がしんどいって言えなかった。不謹慎ですけど、休む理由ができたって」

胸をすべて取る手術を覚悟していましたが、主治医から提案されたのは、乳房の一部を切除する手術でした。「私の知識がもう古すぎて。全部取らなくていいんやって、どっちかというと安心しました」。

それでも、お父さまががんになった年齢に近づいた頃に、自分もがんがわかった。「死ぬかもしれない」という恐怖は、いつも隣り合わせにありました。看護師として、全身麻酔の手術のあとに容態が急変した人を見てきた加藤さんは、手術の前日、家族と食事に出かけ、「これが最後かもしれない」という覚悟で過ごしたといいます。

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乳房部分切除術と放射線治療

  • がんが小さい場合には、乳房の一部を切除する「乳房部分切除術(乳房温存手術)」が可能です。行うかどうかは、がんの大きさや位置、乳房の大きさなどの条件や、本人の希望を考慮して決めます
  • 乳房部分切除術のあとには、放射線治療を行います。ホルモン受容体陽性の乳がんでは、術後にホルモン療法薬を用いた薬物療法を行うことがあります
  • 手術や麻酔について不安なことは、遠慮せずに担当医や看護師に質問しましょう

関連記事:「乳がんの治療はどう決まる? ステージと「がんの性質」で変わる選択肢」

治療と仕事——両立できなかった日々と、休職という選択

手術後、1か月休んで復職しました。けれど、心は回復していませんでした。管理職として、スタッフや患者さん、病院の経営のことを考える余裕がなく、もう一度休職することになります。

手術のあとには、平日毎日、約1か月続く放射線治療が控えていました。病院が混み合う時期で、治療の時間は日によって午前だったり午後だったり。仕事と両立するのは難しいと感じ、思い切って休職して治療に専念しました。

「今はその選択をしてよかったなと思います。仕事をしながらだったら、中途半端になったり、行けない日が出てきたりしたんじゃないかなって」

最終的に、加藤さんは病院を退職します。その経験から、強く感じたことがあるといいます。

「病気の人が働きやすかったり、しんどいって言えたり、気を使わずに休める環境っていうのは、上の立場の者が作っていかなきゃいけない。そういう社会がもっと整わないといけないなって、病気になって本当に思いました」

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治療と仕事の両立に悩んだら

  • 放射線治療は、多くの場合、平日に毎日通院して数週間続きます。通院の時間帯や仕事との調整について、早めに医療者や職場と相談しておくと安心です
  • 全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」では、治療と仕事の両立について、患者さんや家族が無料で相談できます
  • 休職や退職は、生活に大きく関わる決断です。一人で決めてしまう前に、相談できる窓口があることを知っておいてください

副作用——「我慢しすぎた」から伝えたいこと

放射線治療のあと、飲み薬の抗がん剤が始まりました。人によっては軽い吐き気程度で済むこともある薬でしたが、加藤さんの体には合いませんでした。

「腸がやられて、2週間ずっと39度ぐらいの熱が出て。鼻や口の粘膜もやられて、肝臓の機能も悪くなりました。起き上がるのも大変で、ご飯も食べられなくて、本当にこのまま副作用で死んでしまうと思いました」

抗がん剤はいったん中止となり、現在も再開していません。中止したあとも、熱や下痢がすぐには治まらず、肝臓の薬を1〜2か月飲み続けたといいます。振り返って、加藤さんが悔やんでいるのは「我慢しすぎたこと」でした。

「根が真面目なので、抗がん剤はやめてはいけないって思って、おかしいなと思っても飲み続けてたんです。今、過去の自分に言うとしたら、しんどかったらしんどい、痛いなら痛い、つらいならつらいって言いなさいって言いたいです」

そしてもうひとつ、つらかったのが色素沈着でした。顔に濃いシミが広がり、指や爪、肘やひざまで黒ずんだといいます。

「ファンデーションを厚塗りしても浮き出てくるぐらいで、外に出たくないって思いました。顔はどうしても見られるので、女性としてすごくつらかった。同じつらさを知っている人は、たくさんいらっしゃると思います」

加藤さんは通っているクリニックの医師に相談し、グルタチオンの点滴を受け始めました。シミは目立たなくなり、「私には効果があった」と感じているそうです。ただし、その効果は加藤さん個人の体験であり、科学的な根拠が確立されたものではありません。

「やってくださいとは思わないし、選択するのはご本人やと思います。でも、自分の中になかった選択肢が、私が発信することで『こんなことがあるんだ』ってなれば、その人のためにもなるかなと思って」

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抗がん剤の副作用は、我慢せずに伝える

  • 発熱、下痢、口内炎などの副作用が出たときは、次の診察を待たずに病院へ連絡しましょう。副作用によっては、早めに薬を休んだり量を調整したりすることで、重くなるのを防げる場合があります
  • 抗がん剤の種類によっては、皮膚や爪が黒っぽくなる色素沈着が起こることがあります。見た目の変化もつらい副作用のひとつです。気になるときは担当医や看護師に相談しましょう
  • 副作用を和らげる「支持療法」もあります。→「支持療法とは?副作用を「がまん」しないための基本と対処法」

「藁にもすがる思い」で選んだこと

妹さんは、「お姉ちゃん、絶対に死んだらあかん」と、必死に情報を集めてくれました。そのひとつが、自由診療のクリニックで受けられる高濃度ビタミンCの点滴です。加藤さんは今も週に1回の点滴と、水素の吸入を続けています。

「手術でその部分は取れても、みんなずっと再発と隣り合わせなんですよ。ちょっとでもリスクを下げたい。効くかどうかはわからないし、気休めかもしれないけど、藁にもすがる思いで、自分にいいなと思うものは取り入れたいと思って続けています」

加藤さんが何より大切にしているのは、「気持ち」だといいます。今はホルモン療法の薬を飲みながら、「この薬が私にはすごく効くから、きっと再発しない」と自分に言い聞かせているそうです。

「抗がん剤が合わなかったり、次の選択肢がなかったりする人もいると思うんです。そうなった時に、何かしたいって思う。選択肢は色々あるかもしれないけど、やっぱり一番は気持ちかなと思います」

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自由診療や民間療法を考えるときに

  • グルタチオン点滴による色素沈着の改善や、高濃度ビタミンC点滴・水素吸入などによるがんの再発予防について、効果があるという科学的な根拠は、現時点では確立されていません。加藤さんの経験は、あくまで個人の体験です
  • 特定の栄養素を大量にとるなどの方法が、体に悪い影響を及ぼしたり、治療に影響したりする可能性もあります。始める前に、またはすでに始めている場合も、がんの治療の担当医に必ず伝えましょう
  • 自由診療は保険が適用されず、費用は全額自己負担になります。費用、期待できること、リスクの説明を受けたうえで、納得して選ぶことが大切です

関連記事:「自由診療ガイド」

転機——SNSでつながった仲間が、前を向かせてくれた

治療と退職が重なった頃、妹さんに「今はSNSの時代やし、発信してみたら」と勧められ、Instagram(@shie_restartlife)のアカウントを作るところから始めます。

乳がんがわかってから退院するまでを1分ほどのリール動画にまとめ、入院中に困ったこと、お金や保険のことなど、「自分がもっと早く知っていたら気が楽だった」ことを発信していきました。

「一回自信を全部なくして、私は何もできない人間だって、どん底に落ちてたんです。そんな時に、見てくれる人がいる、自分にできることがあるんだっていう、小さな灯火みたいなものが、SNSを通じて灯ったんです」

手術後に初めて温泉へ行くとき、傷を隠すかどうかを投稿すると、「私は堂々とする」「入浴着があるよ」と、さまざまな声が届きました。やがてSPOTLIGHTを主催する女性から声がかかり、ランウェイを目指す仲間とのコミュニティが生まれます。オンラインだけでなく、練習やお茶会で実際に会うことも増えていきました。

「同じような経験をしている仲間、支えてくれる仲間、共感してくれる仲間がいなかったら、私は今、絶対前向きになれてないです。まだまともに仕事にもついてないけど、毎日楽しく過ごしていて、気持ちが豊かになりました」

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心のつらさも、相談していい

  • がんの診断や治療をきっかけに、気持ちの落ち込みや不安が続くことは珍しくありません。がんの患者さんや家族の心のケアを専門とする「精神腫瘍科」などを設けている病院もあります
  • 「こんなことで相談していいのかな」と思うときも、まずは担当医や看護師、がん相談支援センターに話してみてください

関連記事:「がんと心のケア」

ランウェイ「SPOTLIGHT」へ——自分を大切にすることを、取り戻す

1分間のスピーチで何を伝えるかは、まだ決めていないといいます。「私は今、変わっている途中。ランウェイに立つ時の気持ちは、今とはまた違うと思うから」。それでも、妹さんへの感謝や、死の恐怖と向き合った経験は伝えたいと話します。

「服一つ買うのだって何年もまともにしてこなかったし、本当に自分を後回しにして、大切にしてこなかった。今、一生懸命自分を大切にして、自分を褒めてあげて。同じような悩みの人が同じように悩まないように、少しでも光になれたらと思っています」

SPOTLIGHT CHALLENGER #7 加藤 詩絵
生き様を魅せるランウェイ SPOTLIGHT 2026年11月13日(金)大阪市中央公会堂 開場13:30・開演14:00
イベント情報

生き様を魅せるランウェイ「SPOTLIGHT」

  • 日時:2026年11月13日(金)開場13:30/開演14:00
  • 会場:大阪市中央公会堂

チケットなどの最新情報は、SPOTLIGHT公式サイトをご確認ください。→ IROHAのSPOTLIGHT紹介ページ

これから——看護と、乳がんと、書道と

看護師だった頃、加藤さんがいちばん大切にしていたのは「患者さんに、スタッフに、みんなに幸せになってほしい」という思いでした。それは今も変わりません。

「何かを売っているわけでも、提供しているわけでもないけど、ただただ同じような悩みを持つ人に幸せになってほしい。周りの人が幸せになることが、自分の幸せでもあるのかなって」

しんどいときに気軽に話せる場所があったら——。自分がいちばんつらかった時期を振り返り、心のケアにつながれる場の大切さも感じています。

長く続けてきた書道も、今の喜びのひとつです。御朱印を書いて手渡したときに喜んでもらえることが励みになり、京都・二条城の記念符の文字を手がけたこともあるそうです。看護の経験、乳がんの経験、そして書道。「自分を大切に生きながら、それがみんなの幸せにつながったら」と話してくれました。

まだがんに直面していないあなたへ

「自分を後回しにしないでほしい。おかしいなと思ったり、しんどいなと思ったりしたら、それががんの兆候じゃなくても、痛いなら痛い、しんどいならしんどいって声を上げてほしい。休みたいと思ったら、休みたいって言える勇気を持ってほしいです」

「自分は大丈夫っていう変な自信、みんなあると思うんです。でも、検診に行くことは、自分を大切にする第一歩。どうか検診に行ってください」

加藤さんの発信——Instagram

発信

IROHAから読者へのメッセージ

人のために働き続けてきた人ほど、自分の体や心の不調を後回しにしてしまいがちです。加藤さんは、乳がんをきっかけに立ち止まり、「我慢しない」「自分を大切にする」ことを、一つひとつ取り戻している途中です。

この体験から、いまできること
  • しこりなど気になる変化に気づいたら、次の検診を待たずに受診する
  • 副作用がつらいときは我慢せず、すぐに病院へ連絡する
  • 治療と仕事の両立や、心のつらさは、がん相談支援センターなどに相談する
  • 自由診療や民間療法を検討するときは、担当医にも必ず伝えたうえで、納得して選ぶ

IROHAは、特定の治療法や医療機関を推奨・保証する立場ではありません。一人ひとりが必要な情報を知り、納得して選べるよう、体験談や情報を届けていきます。

本記事は、加藤 詩絵さんへのインタビュー内容をもとに、読みやすさを考慮して構成・編集しています。語り手の言葉は、意味を変えない範囲で表現を整えています。治療の経過や症状、自由診療の体験は個人のものであり、すべての方に同じ経過や効果が当てはまるものではありません。治療方法の選択や変更は自己判断せず、必ず担当医など医療者にご相談ください。
「がんの情報」の出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」「放射線治療」「薬物療法」「がんと民間療法(健康食品・サプリメント・食事療法を中心に)」「がんと仕事」「がん相談支援センターで相談できること」(情報確認日:2026年10月7日)

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