和歌山で35年、トリミングサロンを営みながら子育てをしてきた松本 尚子さん。仕事も遊びも全力で、自分の体を休めることのないまま走り続けていた2025年の夏、乳がんが見つかりました。

「病気になったら戦うっていうイメージだったんですけど、病気は自分の味方をしてくれてるって、今は思ってるんです」

医師の言葉に深く傷ついた日、1回でやめると決めた抗がん剤、そして「体の声を聞く」ことを覚えた1年。2026年11月、ランウェイ「SPOTLIGHT」にCHALLENGER #13として出場する松本さんに、これまでの歩みと、今伝えたいことを伺いました。

プロフィール
  • 松本 尚子さん/57歳。和歌山県在住。トリマーとして約35年、サロンを経営している
  • 2025年7月、乳がん(HER2陽性、しこりは約2.6cm、ステージ2)と診断。抗がん剤治療を1回受けたあと、自身の判断で抗がん剤と手術を受けないことを選び、現在は医師のもとで経過観察を続けている
  • 病気のことは周囲に伏せてきたが、SPOTLIGHTへの挑戦をきっかけに、自身の経験を伝え始めた
  • 2026年11月13日、ランウェイ「SPOTLIGHT」に出場(CHALLENGER #13)
この記事には、語り手が標準治療(抗がん剤・手術)を受けないことを選んだ体験が含まれます。これは松本さんご本人の選択と体験であり、IROHAが標準治療を受けないことを勧めるものではありません。治療方法の選択や変更は、必ず担当医と相談してください。

発症前——仕事も遊びも、全部が精一杯だった

トリマーとして独立して約35年。ありがたいことにずっと忙しく、子育てをしながら毎日必死に働いてきました。子どもたちの手が離れてからはゴルフも始め、遊ぶことにも全力でした。

けれど、年齢とともに疲れや体のあちこちの痛みを感じるようになっていました。身内との悩みごとも重なり、ふと時間が空くと考え込んで落ち込んでしまう。そんな日々が2年ほど続いていたといいます。

「仕事も大好きなのに、仕事もしんどいって思ってたんです。遊びに行こうと思っても、痛み止めを飲んでゴルフに行くとか。体を休めるっていうことを全くしてなかった。自分に負担をかけるばかりだったなって、病気になって改めて思いました」

発見——毎日の習慣で気づいた「動くしこり」

以前、反対側の乳房が乳腺の検査で引っかかったことがあり、松本さんには毎日お風呂で胸を触って確かめる習慣がありました。ある日、いつものように触っていると、小豆ほどの大きさの何かに気づきます。

「しこりって硬くて動かないイメージだったんですけど、プルプル動いて、あっちにもこっちにも行く感じだったんです。だから、がんではないかもしれない。でも何かあるなと思って」

1週間ほど様子を見ても消えなかったため、乳腺クリニックを受診。その日のうちに組織を取る検査(生検)を受け、約3週間後に乳がんと告げられました。検査をすると、しこりは約2.6cm。タイプはHER2陽性で、ステージは2と3の間くらいと説明されたといいます。

がんの情報

「動くしこり」でも、自己判断せずに受診を

  • 乳がんのしこりは硬く動きにくいことが多いとされますが、しこりの性質だけで良性か悪性かを自分で見分けることはできません
  • しこり、乳房のひきつれやくぼみ、乳頭からの分泌物など、気になる変化があるときは、乳腺外科などを受診しましょう

くわしくは「「検診」と「気になる症状」は別もの。乳房の変化に気づいたら」をご覧ください。

告知のあと——いちばん傷ついた、医師の言葉

告知を受けたときはショックでしたが、「治るかもしれない」という気持ちもありました。松本さんがいちばん深く傷ついたのは、その後の出来事です。

転移の有無などを調べるため、大きな病院で精密検査を受ける予定だった日の朝、38.5度の熱が出ました。病院に連絡すると、日程を変えるよう言われます。ところが、そのことを最初のクリニックに報告すると、医師から折り返しの電話がかかってきました。

「高熱の中で、『そんなことしてたら脳にも飛んでるし、抗がん剤打って頭もハゲてくる』みたいなことを言われて。まだ何も調べていない段階だったのに。もう私はこのまま脳に転移して死んでしまうんやって。それがいちばんショックでした」

心を病むほど落ち込んだ松本さんは、家族と相談し、別の病院で診てもらうことを決めます。友人が調べてくれた病院の医師や看護師はとても親切で、「頑張ろう」と、一度は前を向くことができたといいます。

がんの情報

医師との関係に悩んだら

  • 説明が理解できない、不安が大きいなど、担当医との関係に悩むときは、病院の看護師やがん相談支援センターに相談できます
  • 診断や治療方針について、別の医師の意見を聞く「セカンドオピニオン」という方法もあります。検査結果などの資料は、担当医に紹介状とあわせて用意してもらうのが一般的です

抗がん剤——1回で「もう続けられない」と思った

新しい病院で示された方針は、抗がん剤を8回行い、そのあと手術をするというものでした。入院してポート(点滴用の器具)を埋め込む手術を受け、2025年9月、1回目の抗がん剤を受けます。

入院中の3日間は元気でしたが、帰宅すると激しい下痢が始まりました。口から食道にかけて焼けたようになり、食べることも飲むこともできない。体重は7kgほど落ち、次の診察までの3週間のあいだに、帯状疱疹や膀胱炎も起こしました。

「抗がん剤って大変って聞くじゃないですか。みんな我慢してるんだろうなと思って、3週間必死に頑張ったんです。でも診察に行ったら、先生に『救急車で運ばれてもいいぐらいの状態やね』って言われて」

「これをあと何回も続けたら、私は死んでしまう」。そう感じた松本さんは、抗がん剤をやめると決めました。

がんの情報

抗がん剤の副作用は、我慢せずに伝える

  • 下痢、口内炎、発熱、食事がとれないなどの副作用が出たときは、次の診察を待たずに病院へ連絡しましょう。薬の量やスケジュールの調整、副作用を和らげる治療で、つらさが軽くなる場合があります
  • 副作用を和らげる「支持療法」もあります。→「支持療法とは?副作用を「がまん」しないための基本と対処法」

自分で選んだ道——抗がん剤も手術も受けないという選択

抗がん剤を始めた頃、松本さんは知人を通じて「ソマチッド」と呼ばれるものに出会いました。そのお水を飲み、お風呂にも入れて、朝晩の入浴で体を温める。無農薬の野菜を探して野菜スープを作り、「体に悪いものは入れない」と決めて過ごしたといいます。

次の診察で抗がん剤をやめたいと伝えると、医師は治療を続けるよう強く勧めました。そのとき行ったエコー検査では、リンパ節の転移は確認できず、胸のしこりも形がばらばらになっていると説明されたそうです。それでも医師は、治療をしなければ腫瘍が大きくなり、皮膚を破って出てくることもあると説明し、手術を勧めました。

「すっごいショックだったんですけど、自分の中ではもう打たないっていう決意が強かったので。私は抗がん剤をやったら死ぬって思ったから、違うやり方で前向きに進もうと決めたんです」

医師とのやり取りは12月まで続きましたが、最終的にポートを取り出し、抗がん剤も手術も受けないことを選びました。ホルモン療法などの治療も受けていません。その後、松本さんの考えに寄り添ってくれる医師に出会い、現在は血液検査などで経過を見ながら、「もし腫瘍が大きくなってきたら、別の薬を使うことも考えよう」と話し合っているといいます。直近の血液検査では、腫瘍マーカーも正常値だったそうです。

ただ、迷いがないわけではありません。

「みんなと違う治療をしてるじゃないですか。だから時々すごく怖くなるんです。抗がん剤を打った方が良かったんじゃないか、手術した方が良かったんじゃないかって。今はこの道を進んでいますけど、もしがんが大きくなってきたら、また違う方針にする。絶対これっていうことは決めないでおこうと思ってるんです」

「抗がん剤をやって治すって決めた人は、本当にすごいと思います。あのしんどさに打ち勝って治していくって。病院の先生も、それをしたら治るからっていう気持ちで伝えてくれてるのも、すごくわかるんです」

がんの情報

標準治療と、治療を受けない・中止するという選択について

  • 標準治療とは、科学的根拠に基づき、現時点で最も効果が期待できると認められている治療です。乳がんでは、がんの広がりや性質に応じて、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行います
  • HER2陽性の乳がんには、HER2を標的とする薬(抗HER2薬)を使った治療があります。副作用がつらいときも、薬の種類や量、スケジュールを変えるなど、ほかの方法を検討できる場合があります
  • 治療を受けない、または途中でやめると、がんが進行するリスクがあります。決める前に、担当医から十分な説明を受け、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しましょう
  • 腫瘍マーカーは、がんの有無や状態を正確に示すものではありません。マーカーが正常でもがんがある場合があるため、画像検査などとあわせて医師が判断します
  • ソマチッド、特定の水、食事療法などの民間療法に、がんを治したり小さくしたりする効果があるという科学的な根拠はありません。松本さんの経過は、あくまで個人の体験です

関連記事:「乳がんの治療はどう決まる? ステージと「がんの性質」で変わる選択肢」「自由診療ガイド」

体の声を聞く——病気が教えてくれたこと

今、松本さんの体調はとても安定していて、食事もおいしく、ゴルフにも出かけています。それでも、身内のことなどで心に負担がかかると、胸が張ったり痛んだりするのを感じるといいます。

「痛みで教えてくれたり、しんどいって教えてくれたり。でも、自分の体の機嫌を取ってあげたり、休めてあげたり、体の声をしっかり聞いてあげたら、それがなくなっていくんです」

そう思えるようになったのは、この1年のあいだに出会った人たちのおかげでした。気持ちを受け止めてくれた病院の看護師、元気な頃から通っていた整体の先生、そして新しい方針を選ぶとき背中を押してくれた友人。

「元気な時って、整体の先生が言ってくれてたことが全然入ってこなかったんです。病気になって、あの時言ってくれてたのはこういうことだったんだって。自分を大事にしないといけない。体はこのがんを作ったことで、まだ生きさせてもらってる。もうちょっと自分を大事にして生き方を考えたらいいよって、教えてもらった気がします」

以前なら、しんどくても「動かないといけない」と思っていました。今は、しんどい日は何も考えずに寝る。仕事はスタッフに任せ、動ける範囲でお店に立ち、疲れたら「今日は帰るね」と言えるようになりました。

「病気になってなかったら、自分と向き合う時間なんて全然なかったと思うんです。大親友だった友達と離れたり、つらいこともいっぱいあったけど、この1年でいろんな景色を見せてもらって、今があるなって思ってます」

5匹の愛犬(ビション・フリーゼ)も、大きな支えでした。「この子たちがいてるから、絶対死ぬわけにはいかなかった」。入院中、会えなかった日々はとても寂しかったといいます。

がんの情報

心のつらさも、相談していい

  • がんの診断や治療をきっかけに、気持ちの落ち込みや不安が続くことは珍しくありません。がんの患者さんや家族の心のケアを専門とする「精神腫瘍科」などを設けている病院もあります
  • 全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」では、治療のことや気持ちのつらさについて、無料で相談できます

関連記事:「がんと心のケア」

ランウェイ「SPOTLIGHT」へ——隠してきたことを、伝える側に

SPOTLIGHTを知ったのは、乳がんの経験者である田中 美穂さん(田中 美穂さんの物語)からの誘いでした。「何かわからないけど、やってみたいかもしれない」。直感で動いたといいます。

松本さんはこれまで、お客さんに心配をかけたくないと、がんのことを伏せ、「別の病気で休んでいる」と伝えてきました。近所の人もほとんど知らなかったほどです。

「SPOTLIGHTを機に、もう大丈夫、自分で大丈夫って思えて。私はこうやって生きてるよって、今の気持ちが誰かの役に立てたらいいなって。発信するのはすごく苦手なんですけど、ちょっとずつでも伝えていけたらと思ってます」

57歳。「これからが第二の人生」と話す松本さんは、人の目や周りのことばかり考えてきた生き方を見直し、まず自分を大事にしながら、一日一日を悔いのないように楽しみたいと考えています。

SPOTLIGHT CHALLENGER #13 松本 尚子
生き様を魅せるランウェイ SPOTLIGHT 2026年11月13日(金)大阪市中央公会堂 開場13:30・開演14:00
イベント情報

生き様を魅せるランウェイ「SPOTLIGHT」

  • 日時:2026年11月13日(金)開場13:30/開演14:00
  • 会場:大阪市中央公会堂

チケットなどの最新情報は、SPOTLIGHT公式サイトをご確認ください。→ IROHAのSPOTLIGHT紹介ページ

がんと診断された人へ——「体験の声」が力になる

がんと診断されると、人は孤独を感じるもの。家族や友人にも、この気持ちは完全にはわからない——。だからこそ、同じ経験をした人の声が励みになると松本さんは話します。

「しんどさとか痛みとか、その体験ってすごく本物だと思うんです。人それぞれ全然違う。それに、つらい時って字を読むのもしんどいんですよね。耳だけで聞こえてくる声は、すごく楽だと思います」

まだがんに直面していないあなたへ

「自分を大切にしてください。自分の体の声を聞いてください。そうしたら、体は全部教えてくれます」

IROHAから読者へのメッセージ

松本さんは、つらい副作用と医師との関係に悩んだ末、標準治療とは異なる道を自分で選びました。そして「絶対これと決めない」と、状況が変われば方針を見直す柔軟さも大切にしています。一方で、標準治療を受けないことには、がんが進行するリスクがあります。同じ選択がすべての方に当てはまるわけではありません。

この体験から、いまできること
  • 日頃から自分の乳房を確かめ、気になる変化があれば早めに受診する
  • 副作用がつらいときは我慢せず、すぐに病院へ連絡する。薬の調整や支持療法で軽くできる場合がある
  • 治療をやめたい、変えたいと思ったときは、一人で決めずに担当医と話し合い、セカンドオピニオンも検討する
  • 民間療法を取り入れるときは、担当医にも必ず伝える
  • 心のつらさや医師との関係の悩みは、がん相談支援センターなどに相談する

IROHAは、特定の治療法や医療機関を推奨・保証する立場ではありません。一人ひとりが必要な情報を知り、納得して選べるよう、体験談や情報を届けていきます。

本記事は、松本 尚子さんへのインタビュー内容をもとに、読みやすさを考慮して構成・編集しています。語り手の言葉は、意味を変えない範囲で表現を整えています。治療の経過や症状、民間療法の体験は個人のものであり、すべての方に同じ経過や効果が当てはまるものではありません。本記事は、抗がん剤や手術などの標準治療を受けないことを勧めるものではありません。治療方法の選択や変更は自己判断せず、必ず担当医など医療者にご相談ください。
「がんの情報」の出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」「用語集「標準治療」」「薬物療法」「セカンドオピニオン」「がんと民間療法(健康食品・サプリメント・食事療法を中心に)」「がん相談支援センターで相談できること」(情報確認日:2026年10月7日)

この体験について、さらに深く知る

体験談から情報の整理、そして相談へ。3つのステップでつながります。

1 体験談を読む

今、読んでいるページです

2 女性のがん特集を見る

活動者の声や最新情報をまとめて見る

3 適した先生を提案してもらう

AIコンシェルジュ「いろは」に相談する

前のストーリーへ ストーリー一覧へ 次のストーリーへ