色彩心理やカラーセラピーの講師として活動してきた、あけみんこと松本 朱實さん。乳房の異変に気づきながらも受診を後回しにし、病院に運ばれたときには、がんは肺や骨にまで広がっていました。「静かに緩和ケアで過ごしなさい」——そう告げられた日、あけみんさんが心の中で思ったのは、意外な言葉でした。
「心の中で、何言ってんねん、このおっさんって思ってたんですね。私、絶対奇跡起こして、奇跡起こしたら全国で講演するからって」
2026年11月、乳がんを経験した女性たちが歩くランウェイ「SPOTLIGHT」に出場するあけみんさんに、これまでの歩みと、今伝えたいことを伺いました。
- あけみん(松本 朱實さん)/色ことば®︎ 光のことだま講演家・セラピスト。色彩心理・カラーセラピー、マナー研修などの講師として活動
- 乳房の異変から約半年後、自宅で大量に出血して救急搬送。乳がん(ステージⅣ。リンパ節・肺・骨に転移)と診断される
- 抗がん剤治療・ホルモン療法・左胸全摘出手術を受け、その後無病状態となる。現在は講演やブログ、書籍などを通して、自身の経験や生きることの大切さを発信している。
- 著書『奇跡を起こす力〜余命宣告からの奇跡の軌跡〜』。2026年11月13日、ランウェイ「SPOTLIGHT」に出場(CHALLENGER #14)
発症前——母と父、ふたつの闘病を見てきた
あけみんさんのお母さまは、長い闘病の末に大腸がんで亡くなりました。不安の強い性格で、「効かなかったらどうしよう」「再発したらどうしよう」とずっと心配し続けていたといいます。そして医師から余命を告げられたあと、生きる気力をなくしていく姿も見てきました。
一方、膀胱がんを経験したお父さまは、「絶対大丈夫や」と前向きに治療に向き合いました。
「両極端なパターンを見てきてたんですね。私はどっちかっていうと父に似てるタイプだったので、あんまりがんって怖いと思わなかったのと、母を見ていて、自分の気持ちってすごく大切なんじゃないかなって感じていました」
気づいていたのに——後回しにした半年
最初の異変は、胸の張りでした。もともと乳腺症になりやすく、更年期も重なっていたため「そのせいだろう」と様子を見ているうちに、皮膚がただれてきたといいます。
「乳がんかもしれない」と思いながらも、シングルマザーとして生活を支え、出張もある講師の仕事は代わりがいない。コロナ禍で病院に行きづらかったこと、抗がん剤治療への恐れ、治療費の心配も重なり、誰にも相談できないまま半年が過ぎました。
「行けと言われるのと、あと手遅れだって言われるのがなんか怖かったのかもしれません。変な責任感が出てしまって、自分を後回しにしてましたね」
やがて腰の痛みで立ち仕事がつらくなり、5分歩いては休まないと息が続かなくなっていきます。そしてある日、自宅で床が血の海になるほどの大出血。驚いた息子さんが救急車を呼び、ようやく病院にかかることになりました。
乳房の変化と、受診をためらう理由
- しこりだけでなく、乳房のくぼみ、乳頭や乳輪のただれ、乳頭からの分泌物なども、乳がんで見られることのある変化です。気になる変化があれば、検診を待たずに乳腺外科などを受診しましょう
- 治療費が心配なときは、医療費の自己負担を軽くできる「高額療養費制度」などの仕組みがあります。病院の相談窓口や、全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」で、患者さんや家族が無料で相談できます
くわしくは「「検診」と「気になる症状」は別もの。乳房の変化に気づいたら」もご覧ください。
「静かに過ごしなさい」と言われて
搬送された病院で、乳がんは肺や骨などにも転移していることがわかりました。ホルモン療法が効くタイプの乳がんでしたが、出血による貧血がひどく、体力も落ちていたため、その病院では治療は難しく、緩和ケアで静かに過ごすよう勧められたといいます。
お母さまがお世話になった緩和ケアの病院への転院を希望しましたが、コロナ禍の事情もあり、受け入れてもらえませんでした。歩くこともままならない中、助けてくれたのが病院の医療ソーシャルワーカーでした。自宅近くで、すぐに受け入れてくれる乳腺外科の医師を探し出し、「ここなら近いから行きましょう」と背中を押してくれたのです。
転院先で出会った今の主治医は、前の病院での説明を聞いたうえで、こう言ったそうです。
「僕からしたら希望あるよって、一言。しんどいけど、本気で頑張れるんだったら一緒にがんを消しましょうって言ってくれはったんです。もう助からないって言われた私に、笑顔で、力強く。あ、もうこの先生に全部任せようって思いました」
その日のうちに検査を受け、翌週から治療が始まりました。
転移がある乳がんの治療と、頼れる相談先
骨や肺など離れた臓器に転移がある乳がんでは、薬物療法が治療の中心になります。ホルモン受容体やHER2などのがんの性質、症状、体の状態、本人の希望をもとに治療を選び、がんの進行を抑えることや、症状を和らげて生活の質を保つことを目指します。治療の目標や見通しは一人ひとり異なるため、担当医とよく話し合うことが大切です。
また、あけみんさんのように「次にどこへ行けばいいか」がわからないときは、病院の医療ソーシャルワーカーやがん相談支援センターが、転院先や療養先、制度について一緒に考えてくれます。
治療——「最大限に効いて」と、薬に話しかけた
治療は、抗がん剤治療とホルモン療法を同時に進めるもので、保険診療で受けられたといいます。初めての抗がん剤のあとは、2日間眠れないほどの痛みに涙したそうです。それでも診察のたびに主治医が「小さくなってるね」と声をかけてくれることが、何よりの支えになりました。
「抗がん剤に、あなたは最大限に効く薬、最小限の副作用をって話しかけてたんです。先生が毎回ちっちゃくなってるって言ってくださるから、副作用より、これでどれだけちっちゃくなるのかなって楽しみにしていたのは覚えてます」
治療を始めて約半年で、がんは画像で確認できないほど小さくなったといいます。吐き気は少なかったものの、抗がん剤のあとの2日ほどは倦怠感で起き上がれないこともありました。
仕事は、オンラインの講座に切り替えて続けました。余命を告げられた2日後に届いた企業セミナーの依頼も引き受け、治療中に90分の講座を2回、やり遂げています。「実はウィッグなんです」「まだ歩けないので杖をついてきました」と、笑いに変えながら。
人に甘えるのが苦手だったあけみんさん。看護師さんに「もっと甘えていいんだよ」と言われ、お父さまに治療費の相談をすると「治してこい」と支えてくれたそうです。
気持ちと治療のこと
気持ちの持ち方そのものが、がんや治療の効果を左右するという医学的な根拠は示されていません。治療の経過は、がんの性質や広がり、体の状態などによって一人ひとり大きく異なり、あけみんさんの経過がすべての方に当てはまるわけではありません。
一方で、医療者の言葉や前向きな目標が、つらい治療を続ける支えになることはあります。副作用は我慢せずに伝えることで、和らげる方法があります。→「支持療法とは?副作用を「がまん」しないための基本と対処法」
なぜ、怖くなかったのか
余命を告げられても、不思議とがんが怖くなかったというあけみんさん。その理由は、お母さまの闘病にあったといいます。
「母は、お医者様の言葉通りになっていったんですね。病気に関してはネガティブにしか考えられなかった人だったので。それを見てたから、余計に、自分の気持ちを大切にしようと思えたんだと思います」
一方で、仕事やお金のことは「すごく不安だった」と率直に話します。前向きさは、がんに対してだけ。だからこそ、周りに助けてもらえたことへの感謝が、今の活動の原点になっています。
伝えたいこと——がんを理由に、自分を諦めないで
「がんって言われると、皆さん怖いんですよね。でも、がんだからって怯えないで自分を生きてほしい。がんの病気の影に隠れて、自分のやりたいことを諦めないでほしいんです」
今いい状態なのに、まだ起きていない再発ばかりを心配してしまう人も多い——お母さまの姿と重なるからこそ、そう伝えたいといいます。
「私は特別な人じゃないんです。奇跡って誰でも起こせる。それは、小さな奇跡に気づけるかどうか。小さな幸せをどれだけ探せるか、気づけるかで、人生変わるよって伝えていきたいです」
ランウェイ「SPOTLIGHT」と、これから
講演活動を思うように広げられず、もやもやしていた時期に目にしたのが、SPOTLIGHTの出場者募集でした。ドレスを着てランウェイを歩くのは、まったく新しい挑戦です。
「一歩踏み出すことで世界が変わるって、私は思ってます。小さな行動から大きな運ってつかめるんじゃないかなって。その姿を見てほしいし、次に輝くのはあなたなんよって、皆さんに伝えたいです」
生き様を魅せるランウェイ「SPOTLIGHT」
- 日時:2026年11月13日(金)開場13:30/開演14:00
- 会場:大阪市中央公会堂
チケットなどの最新情報は、主催者の案内をご確認ください。→ SPOTLIGHTの紹介ページ
これからの夢は、全国から「話してください」と呼ばれる講演家になること。企業や学校で「命の授業」をしたい、とも話します。
「私が元気に活動して輝けることが、一番の恩返しだと思ってるんです。主治医の先生も、私が元気に活動しているのが、医者をやっててよかったって思う瞬間ですって言ってくださったので」
まだがんに直面していないあなたへ
「おかしいなと思ったら、一人で抱え込まないでください。人に甘えていいんですよ。頼っていい。しんどい時は、助けてって言ってほしいなと思います」
誰にも言えないまま半年を過ごしたあけみんさんだからこその、まっすぐな言葉です。面と向かって「がんかもしれない」と話すのが怖い人もいる。だからこそ、カラーセラピーのような身近な場で気持ちを吐き出してもらうことにも、意味があると考えています。
「乳がんだけじゃないですけど、みんなが笑っている世界になればいいなって、すごく思います」
あけみんさんの発信——ブログ・note・書籍
あけみんさんは、闘病のことや言葉・色の力について、ブログやnoteで発信を続けています。
IROHAから読者へのメッセージ
受診を後回しにした半年、「静かに過ごしなさい」と言われた日、そして希望をくれた出会い。あけみんさんの物語は、「一人で抱え込まないこと」「頼れる人や窓口があること」の大切さを教えてくれます。
- 乳房の変化(しこり・皮膚のただれ・出血など)に気づいたら、仕事や費用の心配より先に受診する
- 治療費や生活のことは、病院の相談窓口やがん相談支援センターに早めに相談する
- 「次にどうすればいいかわからない」ときは、医療ソーシャルワーカーなど医療者に頼っていい
- 治療の目標や見通しは一人ひとり違う。わからないことは担当医に質問し、納得して選ぶ
IROHAは、特定の治療法や医療機関を推奨・保証する立場ではありません。一人ひとりが必要な情報を知り、納得して選べるよう、体験談や情報を届けていきます。
「がんの情報」の出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がんについて」「乳がん 治療」「がん相談支援センターで相談できること」、日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」(情報確認日:2026年10月4日)
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